科学も宗教も「人間の幸せ」を考えだした
海猫沢めろん(以下、海猫沢) はじめまして、作家の海猫沢めろんといいます。ここ2年ほど「ヒトと機械の境界」をテーマにさまざまな科学者の方に取材をしてきて、このたび『明日、機械がヒトになる』という本を刊行することになりました。
科学者の方とお話していると、その人生観や幸福観が非常に哲学的、宗教的だなと思うことも多々あって。今日は宗教と科学の両方に詳しい川上さんとお話できるということで、楽しみです。
川上全龍(以下、川上) こちらこそよろしくお願いします。「ヒトと機械の境界」というのは、科学が進歩してだんだん人工知能やロボットがヒトに近づいてきている、という話でしょうか?
海猫沢 そちら側の取材もしたのですが、実は「ヒトが機械に近づいている」という方向性もあるんです。たとえば日立製作所の矢野和男さんは、ウェアラブルセンサを活用して人間の行動法則を探り、幸福度をコントロールして職場の作業効率を上げるという研究をしています。職場の座席の配置を替えるだけで部署全体の業績が全然変わるという結果が出ていたり。
川上 それは知りませんでした。
海猫沢 また、もともと脳科学者・ロボット工学者だった前野隆司さんも、「ロボットでヒトを幸せにするより、ヒトそのものが幸せになる法則を研究したほうがいいんじゃないか?」という発想のもとに、現在「幸福学」を研究している。どちらも、ヒトを一種の「機械」ととらえる発想だなと。
川上 なるほど、「人間の幸福」を考えて科学を行っていくと「機械化」に向かうというのはおもしろいですね。つまり幸福を定量化する方向に動いている。
現在世界的に流行していて、私も普及につとめている「マインドフルネス」も、目的は「人間の幸福」です。マインドフルネスというのはざっくり言うと、仏教伝統の瞑想法を、自分の身体や心の状態に気づいてポテンシャルを引き出すトレーニングとして科学的に強化したものです。最近では、センサーやアプリなどで身体の状態を計測し、マインドフルネスをより効率化するという流れも出てきています。矢野さんの研究と近いものはありますね。
海猫沢 今日はぜひそのあたりのお話を聞かせてください。
多くの人は自分の「リラックスしている状態」がわからない
海猫沢 マインドフルネスには僕もずっと着目していて、自分でも瞑想を続けているんです。川上さんはたしかマインドフルネス用のアプリの監修をされていましたよね。
川上 あ、これのことですよね。「MYALO」。
海猫沢 おお、初めて拝見しました。へー!
左:川上全龍 右:海猫沢めろん
川上 できるだけ宗教色は消して、フラットなデザインと内容にしています。まず、マインドフルネスについての簡単な説明が出て、顔認識をして心拍数をはかるようになっています。
海猫沢 顔認識で心拍数が出るんですか。すごいな。
川上 その後、「呼吸に集中するトレーニング」が始まります。
<音声>ひとつ大きく伸びをしましょう。伸びきったらそのまま手をおろしてリラックスしてください。
海猫沢 ははあ、誘導瞑想ですねえ。
川上 最初は呼吸に集中してもらって、その後「ボディスキャン」といっていろいろな体の部位にも集中させる。いろいろなゲームもできるようになっています。トレーニングが終わった後もまた心拍数の計測を行って、バイオフィードバックで効果を実感してもらえるようにしています。まあ、ウェアラブルセンサーほど正確ではないんですが。
またMYALOとは別に、私も少しお手伝いさせていただいたJINSさんが作られた「MEME(ミーム)」というメガネ型のウェアラブルデバイスは、もっと正確な計測ができます(JINS MEME の禅アプリ)。
バイオフィードバックってすごく大事なんです。いまの人は「リラックスしている」とか「集中している」という感覚がよくわかっていないんです。自分の絶好調を知らずに生きている人がすごく多い。
(アプリの指示に従って姿勢を正す海猫沢さん)
オウム真理教が残した爪あと
海猫沢 僕はもともと興味があって瞑想をしていましたが、最近は日常で「マインドフルネス」という言葉を聞く機会が増えたように思います。でも……アヤシイと感じている日本人って、結構多そうじゃないですか?