なんの因果か、立て続けに2人の男性に告白された私。混乱のあまり、その場で返事をする気力もなく、逃げ帰ってしまった。「ちゃんと〈答え〉を出しますから」とMさんに勇ましく約束をしたものの、答えを出せる自信はなかった。
正直に言えば、私は当初逃げる気満々だったのだ。
バーでKさんの告白を受けたとき、店を出ようとしたタイミングで、一緒に飲んでいたDさん(外で煙草を吸って戻ってきた)と鉢合わせた。
「ひっ……。Dさん、どうしていなくなっちゃうんですか……(涙目)」
「そういう雰囲気かな~、と思ったから。え、大丈夫?」
「……いや、あの……えーっと、か、帰ります……」
「待って。ちょっとお茶していこうか?」
帰ろうとする私を引き止め、Dさんは駅前のとある喫茶店を指差した。渋ったものの、「このままじゃ落ち着いて帰れないでしょ? 」と促され、私は丸いテーブル席に腰掛けた。
「……ここ、私が学生の頃に別れ話をした喫茶店です」
「え、そうなの」
「ちょうど今ぐらいの時期、卒業式の直前に。あそこの窓際に向かい合って座っていました。もう二度と来ないと思ってたんだけど……」
ちらりと窓際のテーブル席に視線を送る。2年前に振られた場所で、今度は告白された話をしようとしている。こうして街の至るところに、恋の遺産は増えていく。
付き合う基準ってなんだと思う?
「……それで、Kさんとはちゃんと話せた?」
Dさんは私の取り乱した様子から、事態をすでに察しているようだ。私はやや落ち着きを取り戻し、「実は……」とKさんから告白されたことをぽつぽつと打ち明けた。
「Kさん、飲みすぎておかしくなってるみたいです」
「いや~、酔った勢いでそんなこと言う人じゃないと思うけど」
「ああ、このまま流したら、なかったことにできないかなあ……」
うっかりこぼした私に「できないよ! 無視した時間の分だけ相手は待ち続けるんだよ」とDさんは怖い顔をする。
「ふづきさん、『一日千秋』って言葉、知ってる? 待つ側はね、たった一日待つのでも、千年待っているように感じるんだよ。待たされるのって、すごく辛いんだからね」
うう、正論だ。けれど、私は誰かの告白をきっぱりと断ったことがない。というのも……。
「大人になっても、イチかバチかで告白するんですね」
私はまた口を滑らせた。「ええっ、何言ってるの」とDさん困惑。
「大人になったら『確実にOKがもらえる』という場合じゃない限り、告白しないものだと思ってました……」
告白とは、「私たちは好き同士である」という互いの了解があった上で、確認のように行われるもの。了解が得られるまで「好き」とは告げず、慎重に距離を詰めていくのが「恋愛」だと思ってきた。そんな私にとって、Kさんの告白は想定外の出来事だった。
「無視したところで、なかったことにはできないんだからね。ふづきさんからKさんに連絡しなよ」
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