さあそこでリフォームの現実を見ていこう。呆れるほど克明に見ていこう。
『リフォームの爆発』より
六本木のカフェで町田康さんと待ち合わせたわたしたちは、落ち合うとまず「ではお飲み物などを……」と一同、メニューに目を落とした。
熟考していると、町田さんが一番に注文の口火を切った。
「ラテン……、やっぱりラテンやね」
コーヒー専門店だったので、モカ、キリマンジャロなどなど、たくさんの種類があるなか、おすすめとして挙げられていたのが「ラテンブレンド」なるものだったのだ。
ほんのすこし力を込めて、町田さんが「ラテン」とつぶやいたとたん、みなが一斉に破顔した。注文を決めただけだというのに。そのひとことが、何やら妙におかしい。
ああ、このおかしみは、町田さんの生み出す作品とどこか通ずるものがある。そう感じた。
いや、わざとおもしろく言ってやろうなんてしていませんよ、もちろん。でもそういうのは、なんでしょうね。言い方とかリズムとか、そこに込めた気持ちみたいなものですかね。
メニューを見て、さらっと「じゃあラテンで」といえばそのまま流れるけど、そこで世の中にとってのラテンというのはどんなイメージだろうとか、あれこれ考えてひとこと言うとずいぶん響きが違ってきちゃう。おもしろさってそういうことですよね。
ラテンという言葉自体がおもしろいというよりは、言い方とか、そこに込める意味や思いの問題。だからやっぱり、ライブで生まれてくるもののほうが、おもしろいということなんじゃないですか。
言葉や文章のおもしろさは、その言葉が指し示す表面的な内容よりも、そこに含まれているものの豊かさで決まってくるのかもしれない。では豊かなものが含まれている言葉とはどんなものかといえば、ひとつの目印としては、快い語り口かどうか。
町田さんが発する「やっぱりラテンやね」というひとことには、そこはかとなく漂い出る味わいと絶妙なタイミングのよさがあって、同じように言葉を発することはなかなかできない。きっと、町田さんの文章も、同じようなしくみでできあがっているんじゃないか。
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