柴那典(以下、柴) 今回はそれぞれ最近グッときた、「心のベストテン」にランク入りした曲について語り合いましょう。
大谷ノブ彦(以下、大谷) せっかくだから、まずはねむちゃんはどんな曲ですか?
夢眠ねむ(以下、ねむ) 私、3曲あるんですけど。まずは坂口喜咲ちゃんっていう子の「DO-SHE-YOU」という曲。ほんとに「むき出しの女の子」って感じで、すごくいいんですよ!
大谷 いいね! これ最高!
ねむ よかったぁ! 私、この子、ほんと推してるんですよ。
柴 いいですね。いやあ、知らなかったです。ノーチェックだった。
大谷 どこで知ったの?
ねむ 高円寺の路上で歌ってたんですよ。私は「えびのお寿司おねえさん」というユニットの頃からすごく好きなんですけど、そのあとにHAPPY BIRTHDAYというバンドでデビューして。でも解散して今はソロになって。喜咲ちゃんの曲って、女友達の恋愛の話を聞いてるような気分で聴いちゃうんです。「彼氏がさー!」みたいな。
柴 曲調としては90年代のJ-POPな感じですね。デビュー当時の椎名林檎みたいな感じ。
ねむ でも、歌詞に「ラブソング」って書いて「クソな歌」と歌っちゃうとか、「子宮」みたいな言葉を使っちゃうのが今の女の子の感じなんです。
柴 なるほど。スタイルは受け継いでるけど、単なるリバイバルじゃない。
大谷 いいね。聴いてるとちょっとドキドキしちゃうな。
日常の中で歌詞の言葉を体感する
ねむ で、もう一つ大好きなのが七尾旅人さんの「TELE〇POTION」
柴 この人は天才ですよね。即興みたいな歌もやるし、テロや戦争をテーマにした壮大な物語も作るし、ファンタジックなポップソングも歌うし、やることが作品ごとにどんどん変わる。
ねむ そうそう。だからどの曲にするか悩んだんですけど、最近一番聴いてる曲がこれなんです。歌詞に「携帯と飛行機とどっちが近づくか考えたりもして」というのがあるんですけれど、私も全国ツアーに行って、みんながそこで待っててくれるって思うんで、めっちゃ刺さる。
柴 たしかに、この曲は七尾旅人さんの中でも一番キラキラしてる曲かも。
ねむ うん。キラキラしてますよね。で、もう一曲はきのこ帝国の「クロノスタシス」。これも大好き。
大谷 きのこ帝国、いいよねえ。
柴 素晴らしいですよね。インディーズの頃は繊細で内向的なギターロックをやっていたんですけど、メジャーデビューしてぐっとカラフルになった。恋愛の曲を歌うようになって、ボーカルの佐藤さんが可愛らしくなった。
ねむ 私、歌詞をきっかけに新しい言葉を知るっていうのが好きなんですよ。歌ってた言葉を辞書で調べて「こういう意味か!」ってわかるっていう。それが体験できる曲なんです。私、「クロノスタシス」っていう言葉の意味をこの曲で知ったんですよ。
大谷 どういう意味なの?
ねむ 時計の針が止まって見える現象らしいんです。
大谷 へえ、そんなことあるんだ。
柴 そうそう。そう錯覚しちゃうという。
ねむ しかもこの曲、夜の帰り道を歩いてる情景を描いている中で「“クロノスタシス”って知ってる?」って歌うんですよ。だから「こういう言葉があるんだ」っていうのを曲の中で体験できる。だからすごく染みるんです。
柴 しかも「時計の針が止まって見える」わけだから、それを通して今の瞬間がずっと永遠に続いてほしいという気持ちを描いている。
ねむ 私、歌詞にすぐ影響されちゃうところがあって、この曲を聴きながら歩いて帰ったりするんですよ。曲と同じことをするのが好きなんです。
大谷 そういうの最高だねえ。
ねむ 自分もそれと同じことをしたくなるんですよね。
たとえば岡村靖幸さんの「だいすき」を聴いて赤いブーツとすれすれのミニを履きたくなったり。かせきさいだぁさんの「冬へと走りだそう」の「アスピリン片手のジェットマシーン」って歌を聴いて、頭痛薬を買うときにはアスピリンを選んだりしちゃう。
大谷 僕もあります。まさにBOOWYの「ホンキー・トンキー・クレイジー」に「アスピリンを軽く噛めば いつもよりもワイセツだネ」っていう歌詞があって。別に薬だから噛む必要ないのに、ガリガリ噛んじゃう(笑)。
ねむ わかる! ついやっちゃうんですよね。
柴 あるなあ。BLANKEY JET CITYの「D.I.J.のピストル」を聴いて、ついついメロンソーダとチリドッグをセットで食べる、みたいな。
ねむ あははは、超たのしいですよね!