A. 荒岩の「克服癖」はちょっと病的!? 完璧な父でいなくてはいけない荒岩のルーツに亡き父の面影が……。
荒岩は優秀なサラリーマンでありながら、家庭では家族みんなのためにいつもおいしい料理を作るパーフェクトなパパ。いつも自然と自信に満ち、頼りがいのある男というイメージ。不器用で人前に出るのが苦手という一面はあるものの、不得手だった結婚式のスピーチも不器用なりにこなせるようになり、同じく得意でないカラオケも「となりのトトロのテーマソング」というレパートリーを身につけ、鉄板ネタにまで仕上げているほどだ。荒岩は苦手なことはなんでもサラッと自分らしく克服していく男なのだ。
そう思っていた。荒岩が「荒岩走り」を克服するまでは。
あの「荒岩走り」を封印!? 完璧な父親像に向かって突っ走る荒岩……!
「荒岩走り」とは荒岩特有の徒競走の走り方で、超パワフルだがスピードの遅い様子がちょっとおもしろいのだ。この走り方は、ことあるごとに登場するクッキングパパの定番ネタ。どれも、厳つくて完璧な仕事ぶりの荒岩の様子からすると、かえってギャップで人間らしさ・可愛らしさが垣間見えるような要素で、逆に魅力だともいえる。むしろチャームポイントといってもいい。
○1巻 cook.8 P119 これが荒岩走り©うえやまとち/講談社
それが、133巻のあるエピソードを読んで、私は荒岩のことがちょっと心配になってしまったのだ。
荒岩は町内運動会の「親子リレー」にみゆきと一緒に参加するにあたり、例の「荒岩走り」を克服すべく、なんと走り込みを行っていたのだ。……たかが町内の運動会のために、ここまで努力しているとは……!
○133巻 cook.1298 P168 かなりハードなトレーニング©うえやまとち/講談社
荒岩はランニングの途中に知り合った単身赴任中のサラリーマン・井川氏から「小学生の息子とキャンプに行くので、テントを張るのにモタつく姿は見せたくないので練習している。たまにしか会えないから息子にカッコいい姿を見せたい」と聞いた荒岩は普段は見せないような高いテンションで語っている。
○133巻 cook.1298 P170~171 尋常でない目の輝き©うえやまとち/講談社
「父親なんてカッコウつけてなんぼでしょう とことんカッコウつけましょうよ!!」……!!
私はこれを見て、衝撃を受けた。いままで「荒岩はナチュラルに人間ができていて、完璧な父親」「サラッと苦手なものを克服する死角なしの男」と思っていたけれど、もしかして荒岩はかなりの努力や無理をして「クッキングパパ」をやっているのではないだろうか。
多くの人にとって、家庭は仕事から帰ってスイッチがオフになる場所。
でも荒岩は家庭でも目指すべき父親像に近づくために気を張って生きているのかもしれない。誰にでもできることではない。すばらしいことだ。でも同時に、いまのままでも充分すばらしい父親なのに、なぜそんなに躍起になってカッコつけなくてはいけないのだろう……と、ちょっと息が詰まるような感じがする。もっと言うと、ちょっと病的な感じすらするのだ。
荒岩は家族にめちゃくちゃ愛されている。
みゆきだって絶対、父親の脚が遅いくらいでがっかりしたりしないはずだ。第一みゆきももう小学6年生だし、町内の運動会の結果がどうあろうと、とくに気にしないだろう。 それなのになぜ荒岩はこれ以上、カッコイイ父親であろうと必死にならなくてはいけないのか、と思うとなんだか切なくなってくる。
「荒岩、無理しないで……!ありのままの『荒岩走り』でいいじゃない!
私はあの走り方、好きだよ!」と言いたくなる。
しかし荒岩はあの自分のチャームポイントともいえる『荒岩走り』を見事に克服してしまう。
みごとに力強さとスピードを両立させた『荒岩走り2015』として……!
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