左:山本一成さん、右:大橋拓文六段
20手先に進むと、悪手だと思った手が好手になっている
加藤貞顕(以下、加藤) ではここから、それぞれの対局について解説していただきます。
大橋拓文(以下、大橋) 第1局の敗着(負けを決定づけた手)は、黒7手目と言われています。
黒7手目
加藤 え、7手目が敗着って、早すぎじゃないですか?
大橋 そうなんです。これは、イ・セドルさんがコンピュータを試した手なんですね。結果的にうまくいかなかったのですが。でも、セドルさんのこの手を敗着にするというのは、その後の応手を完璧に打たなくてはいけないわけで、それができる棋士は世界に5人もいないでしょう。それだけ、アルファ碁が強かったということです。
加藤 コンピュータを試す手とは?
大橋 あまりデータになさそうな手を打って、コンピュータがどう対応するかを試したり、コンピュータを混乱させたりしようと思ったんじゃないですかね。でも前回、山本さんがディープラーニングの解説をしてくれたときに、「局面を丸暗記しないで、抽象化して学習する」と言っていましたよね。まさにその効果で、アルファ碁はちゃんとこの局面で何をすべきか一から考えて、いい手を打ちました。
山本一成(以下、山本) あれ、でも、一緒にニコニコ生放送で解説してた時、アルファ碁の10手目を見て、「これ悪手ですね」とか言ってなかったっけ。
白10手目
大橋 あのね、当時はむしろ、「あ、これでセドルさん勝ったな」って思ってました(笑)。この段階で相手が悪手を打ったら、普段のセドルさんなら絶対勝ちに持っていけるから。 で、この10手目は、プロの対局ではほとんど見られない、部分的には損な手とされている形なんです。定石を丸暗記してたら、絶対に打てない手。しかも、すごく早く打ったから、「バグって変な手打っちゃったのかな」くらいに思ってました。ところが、20手目くらいまで進んでみると、すごくいい手だったとわかった。セドルさんが7手目に打った黒の位置が、絶妙にわるくなってる。
白22手目
加藤 つまり、アルファ碁は、セドルさんが仕掛けた7手目を見事にとがめたわけですね。だから、プロ棋士のみなさんが衝撃を受けていたのか。
大橋 ほかにもアルファ碁は、定石にとらわれない手をたくさん打ってます。「ツケにはハネよ」(相手が自分の石にくっつけて打ってきたら、打たれた石の横に自分の石を打て)という格言があって、棋士はツケられたら自然にハネるんですけど、アルファ碁はツケられても気にしないんです。
加藤 そのあと、30手目あたりでは、プロの皆さんは局面についてどう思っていたんでしょうか。