世界最高レベルのサービスを受けられる首都・東京
ここまで、世界のグローバリズムの波を現地から読み解きながら、アジアの興隆やヨーロッパなどに起こっている激しい変化を見てきた。
一方で、日本は「安く」なっていくばかりだが、日本の大都市の質や価値は、決して下がってはいない。日本の都市部のインフラのクオリティと、成熟性は世界屈指だ。特に東京は世界一といってもいい。多くの都市を回ってきた僕が保証する。
インフラの良さで顕著なのは、交通のネットワークシステムだ。
列車のダイヤグラムの精緻さは、どの国の旅行者も驚く。日本の鉄道は、新幹線から在来線まで、細かく秒単位で発車時間が組まれている。事故がない限り、ほとんど遅れはない。ひとつの電車の運行がズレると、連鎖的に周辺の運行に影響が出る。けれど周りの路線が時間をうまく調整して、ダイヤの網を、元に戻す。これだけ高度に組んだダイヤグラムは、世界に類がない。
正確無比な運行スケジュールは、東京オリンピックの誘致成功の後押しにもなった。2013年にローザンヌで行われた、猪瀬直樹知事(当時)のプレゼンテーションでは「すべてのアスリートとオリンピックファミリーは、つねに時間通りに目的地へ到着できます」とスピーチして、高評を得た。
ダイヤグラムは、イギリス発祥とされているが、ここまで高度に構造化できたのは日本だけだろう。「日本では待ち合わせに遅刻する方が難しい」というのは、外国人旅行者のジョークだ。
また治安の良さも特筆すべきだろう。東京のような大都市でも24時間稼働の店がいたるところにある。これだけ街中にコンビニと自販機が多い都市は、世界中どこにもない。金目的の強盗が、滅多にいないからだ。基本的に行列を乱す人はいないので、子どもでも安心してバスやタクシーの列に並べる。市民で銃など殺傷率の高い武器を携行している人はいないから、不意に狙われることがない。
フランス在住の著名な作家は、日本に一時帰国して、夜中に子どもを連れてコンビニに安心して行けると、帰ってきてよかった!と心底思うのだという。その人がフランスで住んでいる地域では、夜の10時以降、子どもどころか大人もあまり出歩いてはいけないらしい。治安はいい方の地区でも、それが実情だという。
オリンピックの猪瀬元知事のプレゼンでは、「東京では財布を落とすと、一円も抜かれず元の持ち主に返ってくる」と述べると、会場は大きくどよめいたらしい。ありえないほど高いセキュリティレベルと民度の高さは、堂々と世界に胸を張れる。
そして料理の美味しさやヘルシーさ、サービスの質も、本当にすごい。寿司や洋食や中華の高級料理から、ファミレスやコンビニ飯までも、コストパフォーマンスの良さは先進国では群を抜いている。
海外旅行ではいろいろ美味しい料理を食べてくるが、帰国した後、東京の料亭に行くと本当に驚く。この値段で、こんなに美味しいものを出していいのだろうか⁉というのが率直な感覚だ。世界基準で見れば、数倍の値段を取ってもおかしくないクオリティの料理が提供されている。アジアの金持ちが、こぞって日本の高級料亭に押し寄せるのは当然なのだ。
ひと昔前、バブルで儲けたビジネスマンなどがゴルフやグルメ、そして歓楽街の可愛い女性たちとの交遊のためだけに、飛行機に乗ってバンコクやシンガポールや上海の富裕層向けレストランに行っていたのと、同じ現象が逆転して起きている。
それは、とてもいいことだ。美味しくて安いものがある街は、印象がとても良い。その結果、世界の富裕層の投資が集まるようになるのだ。
2章でも触れた、バンコクやシンガポール、上海が経済成長したのは、慰安旅行でいい思いをした日本人ビジネスマンたちが、豊富なジャパンマネーを投じたことも、大きく寄与していると思う。
美味いものを安く食べられて、安値でいい気持ちにさせてもらえる。そういう街は当たり前だが、世界中の金持ちにモテるのだ。
富裕層の海外の知り合いからは、コストパフォーマンスの面でお得感が低いアジアの都市に、北京や台北、ソウルなど何カ所か挙げられるが、東京はまったく聞かない。みんな口をそろえて「TOKYOは安いし、クオリティが高いし、最高!」だという。マレーシアのクアラルンプールやベトナムのハノイと並ぶ人気だ。
おそらく日本が培った食文化のクオリティは、永続的にキープできる。高度なインフラやセキュリティの高さと並び、グローバル社会では相当な優位となっている。投資の世界では、アジアの他国を圧倒できる、武器と言ってもいいだろう。
アジア随一の都市計画のクオリティ
住むにはもちろん、ビジネスをする場としても東京はベストだ。
いまビジネスが好適なアジアの都市と言えば、バンコクが挙げられる。経済発展中で人口が多く、海外資本の流入も進んでいる。日本人にも優しい、働きやすい街だ。けれど、東京と比べたらどうか? と言われると、考えるまでもない。
僕ら日本人にとって、東京は日本語が通じるというこれ以上ない利点がある。この利点はバンコクだろうと、他の地域だろうと、どこにもない。
言葉が細かいニュアンスまで伝わり、仕事の関係者と深くコミュニケーションが取れるというのは、ビジネスではとても重要だ。海外でビジネスする人の失敗の多くは、言葉の行き違いによるものだ。
バンコクは日本人に好意的だけれど、言葉の壁はどうしても生じる。個人が起業するとしたら、あまり広く展開せず、現地の在留邦人を狙ったビジネスが、ちょうどいいだろう。
一方、東京は凋落しているとはいえ、マーケットの大きさはいまでも世界トップクラスだ。そして都市としての成熟度も素晴らしい。
例えばバンコクは雨期になると最悪で、冠水や洪水も日常的だ。その点、東京は江戸時代から治水につとめ、環七の下には氾濫を防ぐ巨大な貯水池がつくられている。梅雨でも台風でも、冠水する心配はない。道路は広くないけれど、地下鉄や高架道路を綿密に整備して、車の渋滞を防いでいる。
パッと見てわからないところに投資をして、長年かけてつくりあげたのが、東京という街だ。都市計画のクオリティは、文句なくアジアNo.1だ。
ただ、ヨーロッパの古都をめぐった後、東京に戻ってくると、残念ながら雰囲気というか活気がなく、貧乏くさいと感じるのも事実だ。経済力の凋落が、こんなに風景と人々から元気を奪ってしまうものかと思う。
しかし、繰り返すが東京はまだまだ素晴らしい。きれいで安全で、アジアに近い。地政学的に、豊かな資源が集中しやすい、有利なポジションを得ている。この優位性は何世紀経とうと変わらない。
経済も安定している。リーマンショックや3・11東日本大震災ほどの打撃を受けても、恐慌に陥ることはなかった。これは賞賛されるべきことだ。ちょっとやそっとの事態ではビクともしない、経済基盤とリソースがある。東京オリンピックなど大きなイベントをステップに、このリソースを未来に活かしていけば、ロンドンに負けない、世界最先端の成熟都市になるだろう。
東京の未来像は、ご飯の美味しいロンドンだ。経済力が落ちようとも、ギリシャのようにはならない。それだけの蓄財と知恵が、東京には残っている。
激変する世界、激安になる日本。世界中を巡ってホリエモンが考えた仕事論、人生論、国家論。
はじめに 世界は変わる、日本も変わる、君はどうする
1章 日本はいまどれくらい「安く」なってしまったのか
2章 堀江貴文が気づいた世界地図の変化〈アジア 編〉
3章 堀江貴文が気づいた世界地図の変化〈欧米その他 編〉
4章 それでも東京は世界最高レベルの都市である
5章 国境は君の中にある
特別章 ヤマザキマリ×堀江貴文
[対談]ブラック労働で辛い日本人も、無職でお気楽なイタリア人も、みんなどこにでも行ける件
おわりに