フィードバックは「悪口」ではなく、その人へのギフト
——石川さんが所属しているIDEOは、『発想する会社!―世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法』が日本でもロングセラーとなり、斬新なアイデアを生み出す企業として世界的に有名です。IDEOは、他の会社と何が違うんでしょうか。
違う点はいろいろありそうですが……例えばIDEOでは、アクナレッジメントとフィードバックをとても大事にしています。アクナレッジメントとは、「認める」「受け入れる」という意味で、その人が何をどこまでできたのか、ちゃんと伝えること。いい仕事をした人には「あなたのやったことのここがすばらしい」と伝えます。また、ブラインドスポットと言って、プロジェクトが終わったらチームの全員が、チームメンバーに対して、その人が見落としていて改善できるかもしれないポイントを描く、というセッションをやります。これはけっこう大変です。
——改善点を書くと、悪口を言われた、自分を否定された、と思う人が出てしまいそうです。
そうなんですよ。でも、フィードバックというのは一種のギフトなんですよね。自分が成長できる糧になります。もちろん、心の準備がないままに厳しいことを言われると受け入れ難いですが、「フィードバックしますよ」と言ってから改善点を伝えれば、相手もそれを受け入れることができる。また、素直にフィードバックを受け入れている人には、情報が集まってくるんです。そうするとその人はどんどん育つし、新しいものが生まれるきっかけもつかめる。逆に、「自分はこの分野については全部知っているから、人の意見なんていらない」という態度をとっていたら、その人は裸の王様になってしまいます。
——そういうフィードバックは、どのくらいの頻度でやっているんですか?
3ヶ月に1回くらいですね。ひとつのプロジェクトがだいたい3ヶ月で終わるので、そのタイミングで2時間くらい時間をとります。まずは、このプロジェクトを一言で表すとどうだったかを聞くんです。それは、空気感みたいなものでもいいんですけど、例えば「ふわふわしてた」とか。
——これは、みんな前向きな気持ちで参加しているんですか?
基本的にはそうですが、そういう雰囲気をつくるのには時間がかかりますね。最初はみんな、フィードバックを書くのはこわいし、書かれるのもこわいと思っています。どれくらい正直に発言していいんだろう、と出方をうかがってしまうことも。でも、基本的には「すべてはプロジェクトの成功のために」という前提を、みんなで共有してるんですよね。だから、人への発言も個人の感情から生まれているのではなく、なにかいいものをつくりたい、すばらしいサービスを世の中に出したい、だからこそオープンな意見を出し合うんだと。
——そういう文化づくりというのは、具体的な方法があるんですか?
ひとつは、プロジェクトをスタートするときに、「アグリーメント」というのをつくること。チーム単位、企業単位と適用範囲はさまざまなのですが、今回はチーム単位の例を話します。アグリーメントとは、そのプロジェクトにおける決まりごとです。それを、スタートするときにみんなで書き出す。「話があるときは直接話す」とか「6時までに毎日帰る」とかなんでもいいんです。それを出しあって、いくつかに絞って、紙に書いて貼っておく。いつでも見えるようにね。それだけで、チームの空気が大きく変わりますよ。