A.4回。自分の結婚式はもちろん、妹にミートローフ、部下のウエディングケーキまで!
荒岩は自分の結婚式でも無理を言って手料理をふるまうような男。親戚や同僚の結婚式でも黙っているわけはない。
母・カツ代と吉岡氏の熟年再婚祝いのホームパーティ、長いつきあいが続いている元同じアパートの住人・上田守の結婚式など、料理の持ち寄りが前提の場合は必ず料理を作っているし、結婚式のプレゼント料理の作り方を人に教えていることも多い。しかしそれにとどまらず、ホテルでやるようなそこそこキッチリとした結婚式にもなに食わぬ顔で手作り料理を持ち込む、それが荒岩という男なのだ。
東京で暮らす妹の味知の結婚式には、ミートローフを届けている。
この料理には荒岩兄妹の子供時代の思い出がある。荒岩が17歳と味知が10歳のときに裕福な親戚の結婚式で食べたミートローフを味知が気に入って「味知の結婚式のときもミートローフ作ってくれる?」と荒岩にたずね、荒岩は「ああ いいぜ」と約束していたのだ。このことを荒岩はおぼえていて、残業上がりでミートローフを仕込んで疲労がたたって寝落ちしてしまい、飛行機を一本見送り遅刻してまで味知の結婚式に約束のミートローフを届けている。自分の結婚式では自分の作った料理をホテルの料理としてサーブされるように周到に準備していたが、ここは福岡を遠く離れた東京。博多では日ごろ料理名人であることを隠しているけれど、ここでは信じられないほど堂々と「おめでとう味知っ 約束のミートローフだっ!!」と高砂の味知にふろしき包みの料理を届けている。
○25巻 cook.244 P46 ひときわ堂々と荒岩登場©うえやまとち/講談社
荒岩はこのふろしき包みを機内に手荷物として持ち込んだのだろうか……。
いろいろと気にはなるけれども、味知は自分がそんな約束を(幼かったこともあり)コロッと忘れていたようで、最初はキョトンとしていたが、荒岩に言われて思い出す。
「お兄ちゃんおぼえていてくれたのっ うちはすっかり忘れてたのに……」と感激。
味知の幼なじみである司会の女性が幼い未知の面倒を見ていたエピソードなどを披露し、会場は感動的な雰囲気に包まれた。味知は涙ぐんで兄の手作りミートローフを食べ、参列客たちも本格的な味に大満足。ものすごくハッピーな雰囲気の結婚式になった。
……そんな雰囲気の中水をさして申し訳ないけれども、荒岩が差し入れたミートローフはたったの9切れ。会場には推定30人以上の参列客がいるけれど、はたして行き渡ったのだろうか……。まあ、そこはいいとしても、味知の場合はわかる。一生の思い出になる結婚式で、兄が幼い頃約束したミートローフを作ってくれたらこれほど嬉しいことはないだろう。しかし、荒岩の持ち込み料理は親族の結婚式だけではすまない。
荒岩のスぺシャリテ、それは独特すぎるウエディングケーキ!!
荒岩は部下の結婚式でも、ちょっと強引に料理を作る。
それも、ケーキカット用のウエディングケーキという重要なポジションのものを作りたがるのである。 初めに荒岩が部下のウエディングケーキを作ったのは、入社わずか1年目で結婚した梅田の結婚式でのこと。しかも新婦は現役女子大生というヤングカップルだ。新人会社員としての仕事と結婚式の準備に追われているであろう梅田に、荒岩は「パーティーのケーキカット用のケーキはオレにまかせなっ ケーキのうまい店知ってるから」と言うのだ。それに対して即「はいっお願いしますっ」と言う梅田。
おいまて、梅田……即答していいのか?
新婦の女子大生・ユミちゃんはセレブ育ちのお嬢さま。大のお菓子好きで、料理教室で習っているほど。
○5巻 cook.47 P57 ユミちゃんの手料理。ユミちゃんはお菓子の腕にはおぼえアリ©うえやまとち/講談社
そんなユミちゃんのことだ。きっとウエディングケーキにもこだわりがあったはず。
梅田「ユミちゃん、荒岩主任がケーキカット用のケーキを用意してくれるって!」
ユミ「エ——ッ?!わたし、今博多で一番人気のパティスリーのケーキにするって言ったじゃない! もう友だちにも自慢しちゃったのに——!」
……ありそうだ。
しかし梅田とて、入社1年目の新人。結婚してこれから家計を支えていく男になろうとしているときに、直属の上司からの親切心の申し出を断る訳にもいくまい。
荒岩、人の人生の一大事にあんまり出しゃばるんじゃないわよ……と思ってしまうが、荒岩はたんに新たな出発を迎える若い2人を祝いたいだけなのだ。誰にも荒岩の善意を止めることはできない。そんなトラブルを思わず想像してしまったが、ウエディングケーキのできばえはというと……。
○6巻 cook.59 P102~103 この見なれないモチーフはなんだろう……©うえやまとち/講談社
この可愛らしいケーキのモチーフは、なんと「ペアまくら」。
このコンセプトに、「若いんだから!早く赤ちゃん作って! ガハハッ」という地方結婚式でよくあるオッサンのスピーチのようなデリカシーの欠けたノリを感じなくもない……。
大丈夫? 梅田とユミちゃん、引いてない?……と思いきや、新郎新婦は照れつつもうれしそう。
確かにコンセプトはオヤジだけれども、たくさんのフリル、側面にはハートマーク、断面もハートという甘さたっぷりのキュートなデザインは、新婦のユミちゃんのイメージにぴったり。荒岩は若い女子の好きそうなデザインのケーキを必死で研究し、前日夜中に背中を丸めて一生懸命作ったのだろな……と思うと、なんとも涙ぐましい。もちろん味はばっちりで、みんな大喜び。「ペアまくら」というネタはちょっとアレだけど、きっとお菓子に一家言あるはずのユミちゃんも満足したにちがいない。
そして、クッキングパパ史上もっとも度肝を抜く超変わり種ウエディングケーキが出現!
料理に対して異常な情熱を持つ荒岩、もちろんこれ1回でウエディングケーキ作りをやめる訳はない。梅田の結婚式から数年後、荒岩が一番気にかけ、可愛がっていた部下・田中一(はじめ)と木村夢子が結婚したときの荒岩のハリキリようはかなりのもの。
「ケーキのうまい店を知ってるからウエディングケーキはオレにまかせな」荒岩は再びそう言って、動き出すのだ。
○38巻 cook.377 P77~78 かなり斬新なプランのようだけど……©うえやまとち/講談社
今回は、用意周到に計画を立て、荒岩が料理名人ということを知っている梅田夫妻に協力を依頼する。しかしこのケーキが、かなりのくせ者だった。ケーキ作りの腕におぼえアリのユミに「ええっウソ~ッ こんなケーキ今まで見たことも聞いたこともないわっ!!」言わしめるほど、斬新すぎるシロモノだったのだ。
荒岩の田中と夢子への思いがパンパンにはち切れんばかりに膨らんだ結果、荒岩のクリエイティビティが暴走してしまい、ケーキは過去最高に大がかりなものになった。
とても荒岩とユミだけの手に負えるのもではなくなり、ユミがカミングアウト前の荒岩の影武者となって陣頭指揮をとる形で営業2課メンバー全員、さらには常務、夢子の弟などを巻き込んで、なんと会社の会議室で夜中までかかって作るのである。おそらく時間外手当など出るはずなどないだろうに、みんな「まるで学園祭の準備かなにかしてるみたいネッ」などと言ってつき合ってくれている。荒岩のプランはつくづく周囲の優しさに甘えすぎと言わざるを得ない。
○38巻 cook.377 P83 工場みたいになっているけども、ここはまごうことなき会議室©うえやまとち/講談社
そんな荒岩のクリエイティビティが炸裂し、荒岩の部下同僚たちの優しさと協調性でもって作られたケーキをご覧いただきたい。
○38巻 cook.378 P94-95おわかりいただけるだろうか、ケーキのみ実写©うえやまとち/講談社