A.篤姫のふるさと、鹿児島が産み育てたさつまおごじょ・木村夢子! 上から目線で人々を籠絡するその手腕に戦慄せよ!
独身時代の木村夢子は、金丸産業営業2課のマドンナの地位を築く一方で、当時営業2課のNo.1ダメ社員であった田中に対して「金欠時にお金を渡したり、世話を焼いたり、失敗を簡単に許したりしてダメな田中をひたすら受け入れ許す」という、いくらなんでもダメ男の夢を具現化しすぎではないかという行動をとっていた。
私はクッキングパパ読者の女性とSNSで「木村夢子は田中の世話を焼くために作られたアンドロイドに違いない!」と盛り上がったことがあるが、それほど夢子はつかめない人物なのだ。
田中と結婚してからも、夢子は完璧に家事をこなし、家計をやりくりし、田中にも充分な飲み代などの遊ぶ金を与えているようだ。子育てで深く苦悩したりする様子もない。あるときなどは「酒を買いに行く」という田中についでにお使いを頼んだら、帰ってきたのは数時間後。しかも酔っぱらって見ず知らずの客を連れてきた、という普通ならイライラするような状況でも笑顔で対応。
私は「さすがは田中専用お嫁さんアンドロイド・夢子、いつ誰に見せても恥ずかしくない完璧な嫁ぶりだ……」と感心していたのである。
○ 49巻 cook.482 P50~51急な来客でも笑顔でウェルカム、そう、夢子ならね!©うえやまとち/講談社
優しいはずの夢子の口からまさかの「上から目線」……!!
しかし、結婚してからしばらく経つと、夢子は意外な一面を見せるようになる。独身時代にはどこまでも控えめでただただ優しく、他人に対して決してインパクトを与えることのない夢子だったけれど、結婚してから年下の人物に対してさりげなく、けれども確実に「上から目線」が滲み出ていることがあるのだ。
夢子の「上から目線」が出たのは田中の部下・工藤に対して。
工藤と夢子は一度面識がある。田中が工藤と飲みに行った帰りに家に連れてきたことがあるのだ。
○39巻 cook.384 P33工藤に対して威張る田中をたしなめる夢子©うえやまとち/講談社
そのときは、かなりおっとりして要領を得ないところのある工藤に対して「ノロマ」と罵る田中をたしなめたりして、いつもの通り優しい夢子だ。
しかし、実はかなり凝り性の料理男子で味噌作りの達人である工藤に、夢子と荒岩が味噌作りを習ったときのこと。たどたどしい語り口ながら、手際よく味噌作りを教える工藤に対して夢子はサラッと「今日は見直しちゃったわ工藤くん」と言う。
○40巻 cook.395 P53 見直す……?©うえやまとち/講談社
一見、普通の褒め言葉。
会って2度目で夫の後輩を「くん」づけで呼ぶのもまあ、人によっては普通のことだろう。でも、なぜ「さすが味噌作りの達人! 感心しちゃった」ではなく、なぜいままで見くびっていたというニュアンスを持つ「見直した」という言葉を選んだのか。
前回会ったとき、田中は夢子に工藤のことを「ノロマだ」と紹介したが、工藤は夢子に見くびられるようなことはなにもしていないはずだ。あまり考えたくはないけれど、夢子はこんな優しい顔をしながら工藤のオドオドした様子を見て値踏みしていたのだろうか。
いやまさか、夢子がそんなことをするはずない。
なんか言い間違いとかかもしれないし、と思っていたけれど、夢子の「上から目線」疑惑はこれだけではない。田中の弟・三郎の彼女、天子に対しても、ごく自然に「上から」なのである。
同じ大学で研究をしている三郎と天子が、田中家に挨拶に行ったときのこと。慌て者の天子が車にお土産のケーキを取りに行った帰りにコケて鼻血を出してしまっても優しく手当てし、ひっくり返ってグチャグチャになったケーキも笑顔で食べてくれる。いつも通りの優しい夢子だ。
しかし、三郎から天子の紹介を聞いた夢子の言葉に私はまたも引っかかる。
○114巻 cook.1109 P194 お手伝いをしてくれている……?©うえやまとち/講談社
「じゃあ天子さんが三郎くんの研究のお手伝いをしてくれているのね」……夢子は一体どこから目線なのだろう。
夢子は三郎の単なる義理の姉で、三郎の研究は三郎が大学でやっていること。夢子には関係ない。「くれている」ってなんだろう……ちょっと、でも深く引っかかる。百歩譲って、夢子が三郎の母親だったら、この言いまわしも不自然ではないかもしれない。夢子は極めて優しく、品のよい物腰なんだけども、どことなく「小姑風」なのだ。私だったら「このちょっとしたウエメセ発言うざいな……」と思ってしまうかもしれない。
しかし工藤も天子も、夢子のこういった言いまわしを全スルーして、夢子の美貌や優しさに「素敵な人……」とウットリと感激するのだ。夢子は初対面の人間の心を掴み、自分のことを全面的に肯定し、憧れるように仕向けることができるのだ。この一瞬で人を籠絡するテクニックは、もはや才能と言ってもいいのかもしれない。
恐るべし、木村夢子……!
夢子が目指しているのは「権力を持ったグレートマザー」か
夢子の「上から目線」は一体どこから来ているのだろうと思うと、あるひとりの女性に行き当たる。
それは夢子の祖母。