武田砂鉄も深澤真紀も、“女性の味方”じゃない
武田 深澤さんが仰るように、「草食男子」という言葉は本来、フェミニズムの文脈から生まれたわけですよね。古い価値観から脱却した男性の登場を指し示す言葉だったと。そういう言葉の生みの親であるという肩書きって、いわゆる“こじらせた”女子の群れの中では有効に働くんですか?
深澤 そう見えますか?
武田 通りかかった飲食店について窓の外から判断するような雑な言い方になりますが、様々な方が “こじらせ女子”について書いていて、とっても狭い空間に2、30人で集まっているように見えます。これもまた「草食男子」同様に、最初に定義した人から見れば不本意な解釈も溢れているに違いない。肯定的に定義した「草食男子」が今や批判的に使われている、で、それを自分の手に差し戻そうとしている深澤さんがいる。その空間でボス的な位置を期待されている可能性もあるんじゃないかとの推察です。
深澤 全然そんなことない。私はこじらせ女子に限らず、女業界自体にうまくはまってないですよ(笑)。前回の岡田対談を読んでもらってもわかるけど、本当に女業界をわかっていないと思う。
武田 わからないというのは、理解できないってことですか? それとも見渡せないってことですか?
深澤 両方ですね。こじらせ女子って、心根が優しくて繊細な人たちが多い。でも私は性根がマッチョで、ものすごく抑圧的な性格なわけです。
私のフェミニズムはそもそも、「自分の過剰なマチズモに対しての警戒」のためで、なにかあるとすぐに「みんな死ねばいい」と思っちゃうようなところがある。
武田 あっ、僕も基本的は「みんな死ね」ですね。
深澤 たしかに武田さんもそうだと思う(笑)。武田さんも私も、他人のことだけじゃなくて自分のことも馬鹿にしていて、絶望や怒りを絶えず感じてる。しかも武田さんは男性だけど、ジェンダー問題でも怒りを隠さない。
武田 そうですね。ただそれは、前回も言った通り、意識してのことではないんです。「うまいことやってるやつが嫌い」「うまいことやってるやつって怪しい」っていう、どうにも変えられない根深い判断軸があって、それは、決して性別に依拠するものではないんです。
深澤 それはわかります(笑)。
武田 で、うまいことやってる連中を見つけて覗きこんでみたら9割が男だった、というだけなんです。「女性の味方をしてくれてありがとう」みたいなことを言われることもありますが、そんなにピンと来ない。「男性の味方をしてくれてありがとう」と言われたことは一度もないですけどね(笑)。腹立たしい相手がたまたま男だっただけで、女性と手を組もうと思って書いているわけではありません。
深澤 武田砂鉄を女の味方だと見るのは、たしかに誤解だと思う。敵の敵が味方に見えているだけですよね。
武田 はい。ただ、うまくいってる連中の箱の中の男女比を、9:1から更に9.5:0.5にするような不当な働きかけがあるなら、それはやっぱり「男」全体を問うてみるべきだと思います。その構造がおかしいわけですから、根こそぎ批判するべきだろうと。その働きかけはあちこちに残っていますね。
深澤 そうですね。しかも武田さんは男だけじゃなくて、名誉男性化した女性にも厳しい。林真理子さんや曾野綾子さんのことも批判しているし。
武田 彼女たちが名誉男性だから批判しているわけではなく、彼女たちが記したコラムを読んで「これはおかしい」と思ったから「これはおかしい」と書いただけのことです。業界の先輩から「あんなこと書いて大丈夫?」と言われて驚きました。「大丈夫か、大丈夫じゃないか」で原稿を書いているのでしょうか。
ヒモザイルは再開するべき
深澤 私自身が「草食男子」騒動の渦中で痛感したんですけど、世間は「中途半端なおばさんが若い男を揶揄すること」——実際は誤解だったわけですが——に対して本当に厳しい。おやじが若い女を揶揄することはある種「仕方ない」ことだと許容しているんですが、女が同じことをしようとすると男からも女からも叩かれる。
ちょっと前の話題ですが、東村アキコさんの連載漫画『ヒモザイル』が、読者の批判を受けて連載中断になった件は知っていますか?
武田 はい。ただ、具体的にどういった批判を受けたのかはよく知りません。
深澤 東村さんがアシスタントの若い男子たちを鍛え上げて、稼げる女のヒモにしようと試みるという実録エッセイ漫画だったんですが、「アシスタントの人権を無視している」「女に結婚を押し付ける男と発想が同じだ」というような批判が殺到して、東村さんが連載を中断したんです。
私もその反応には同感ではあるんだけど、成功したての女が成功した男の振る舞いを真似ると、普通の何倍もの反発を食らうんだということも感じましたね。こんなに東村さんに怒るなら、マチズモを利用して成功した林さんや曾野さんにも怒れば?って思う。でもマチズモで成功しきった女は名誉男性の位置を与えられるから、男も女も甘くなるんです。
武田 常態化されてしまったマチズモには注意を払わないんですよね。許してしまうし、麻痺している。最近の事例で言うと、ベッキーは不倫問題でほとんどの番組を降板することになった。でも、同じことを歌舞伎役者がすれば「芸の肥やし」です。男性お笑い芸人が浮気現場をフライデーされても、ひな壇トークの題材になるだけです。
深澤 そう、以前だったら矢口真里、そして今回のベッキーの件といい、“女の不始末”には異常なまでに厳しいんです。本当に叩かれるべきは、マッチョが常態化してるおやじと、名誉男性として君臨しているおばさんなんだけど、名誉男性化しかけている女がいちばん叩かれやすい。私としては、新芽よりも幹の太いところを叩きたい。そうすれば新芽も枯れるし。
武田 そう思います。新芽はとりあえず放っておいたっていい。そっちに人の目や批判が集中すると、幹側にいる人たちがどんどん呼吸しやすくなっちゃう。そういう経緯ならば、『ヒモザイル』はまた再開してほしいですね。タイトルを「三代目ヒモソウルブラザーズ」に変えてでも。
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