ママが家出して6日目。リナとマイのLINE宛に、思いがけない人からの連絡が届く。
“お前たち、変わりないか?”
何も知らないパパからのお気楽なメッセージに、2人はつい失笑する。そんなに不自由な暮らしを強いられているわけでもないけれど、変わりないかと言われればさすがに嘘になる。現実問題、ママの残していったお金もそろそろ底を尽き始めていたし、あえて隠す理由もないので、リナはパパに事情を打ち明けた。
“それがさあ、ママが家出したんだよね”
既読のサインがついた直後にパパからの着信。その夜急遽、普段はなかなか捕まらないパパと、食事を共にすることとなった。
* * *
駅近くの雑居ビルに店を構える老舗のイタリアンレストラン。昔から家族でよく来ていたこの店のカルボナーラが食べたいと、パパにリクエストしたのはマイだった。
「お前たち、なんで俺にすぐ連絡しないんだよ」
リナとマイを見るなり、パパは呆れたように笑って言う。
数ヶ月ぶりに会うパパは、黒いジャケットに白いシャツ、麻のパンツ、それにハットという装い。身長も高く、お腹も出ているわけじゃない。50代にしてはお洒落なパパは、リナとマイの友人たちからの評判も上々だ。
「いや、まーなんとかなるかなーと思ってさ」
リナが答えると、マイも続く。
「それにパパ、いつも出張でいないじゃん」
パパは、申し訳なさそうに頭を掻く。