初詣に行ったことがない。
子どもの頃は、そんな習慣があることも知らなかった。「初詣も知らないの?」。中学生の頃、クラスメイトに呆れられ、その日のうちに母親に尋ねた。
「ねえ、初詣ってなに?」
「わざわざお正月の寒い時期に、神社に出かけていくことよ。北海道の人は、雪もあるし、信仰心もないから、初詣なんか行かないね」
そうか。初詣に行く人は、寒さを物ともしない、信仰心に篤い人なのか。母親の言葉を信じた私は、毎年初詣に行くこともなく、お餅を食べながら、だらんと三が日を過ごした。
十八歳の頃、初めての恋人ができた。年が明けた瞬間に、雪をかき分け、除夜の鐘を鳴らしに行く人だった。「去年は四番目だった。今年こそは一番に鳴らしたい」と意気込む彼。唖然とした。こっちは初詣さえ未経験なのに。
ああ、こういう人とは無理だ——。気圧された私は、大晦日に別れを切り出した。「大晦日に振るなんて、きみは鬼か」と恨まれた。だって除夜の鐘は、紅白の後にぼうっと眺めるものでしょう。あれをわざわざ鳴らしに行くなんて、その執念が怖いよ。
けれど今年の私は、ある決意を固めて札幌に帰省していた。初詣に行くぞ。連載成功を祈願して、ばっちり一年をスタートさせるぞ。
女友達との初詣デート
一月二日の夕方。十一年の付き合いになる地元の友人が、白のニットセーターに巻き髪を揺らして、改札口に現れた。
「彼氏もいないのにデート服着てるよ」と、会った瞬間に自虐している。九ヶ月付き合った彼氏に振られたばかりなのだ。
「三十歳まで、出し惜しみするのやめるわ。男に媚びて生きていくわ」とすっかり自暴自棄だ。雪道を歩きつつ、彼女の失恋話に相槌を打つ。
「彼氏がいなくても楽しく生きられるよ! 私だって平気だもん」と励ますつもりで口にすると、「いなくなるのと、元からいないのは全然違うよね」と冷静に正されてしまった。そ、そうか……。
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