2015年、低予算の作品ながら、クエンティン・タランティーノやエドガー・ライトら有名映画監督の賞賛をうけ、ヒット作となったアメリカのホラー映画が『イット・フォローズ』である。正体不明の「それ(It)」がひたすら主人公を追いかけてくる、というシンプルなあらすじや、非常に美しく構成された映像などが注目された作品だ。
物語の舞台はデトロイト。19歳の少女ジェイは意中の男性と性行為に及ぶが、その後くだんの男性から、性交によって彼女は感染し、「それ(It)」の標的になったと告げられる。「それ(It)」は、さまざまな人間の姿に変身しながら主人公を追う謎の存在だ。走ることができず、動きは遅いが、どこまでも彼女を追いつづけ、「それ(It)」に捕まれば死んでしまう。死を避けるには他の誰かと性交し、その相手にバトンをうつすほかない。少女をあらたな標的と定めた「それ(It)」は、少女の自宅、通っている大学などあらゆる場所へ現れ、ゆっくりと近づいてくるのだった。
単にホラー映画と呼ぶだけではとらえきれない、豊かな奥行きを持った作品である。アメリカの郊外住宅地(サバービア)を舞台にした10代男女の物語は、青春映画の輝きを備えており、撮影の美しさもあいまって新鮮な印象を与える。観客が、みずからの思春期を重ね合わせながらストーリーの展開を見守りたくなるような繊細さがあるのだ。とはいえ、いつ「それ(It)」があらわれるのだろうというホラー映画ならではの恐怖やスリルは、全編を通して途切れない。
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