昔の恋人たちを夢に見ることがよくある。夢の中の恋人たちは、大抵が妻子持ちになっていて、私と一緒にフラフラした生活をしていた頃よりもずっと幸福そうである。そうして夢の内容は、彼らが「私をその場に置いてどこかへ行ってしまう」あるいは「すっかり様変わりして私のことを憶えていない」というパターンが多い。
私には結婚願望というものが、よくわからない。20代後半、ほとんど狂ったように「結婚したい!」と呻吟していた時期があるけれど、今にして思えばあれは、健全なホモサピエンスのメスとして出産ベストシーズンのホルモンが体内にみなぎっていたのを、天からの怪電波と誤解して受信していただけという気がしている。というか、世に言う結婚適齢期というのだって、イキのいい卵子、出てまっせ! の婉曲表現でしかなかろう、という気分にもなる。
私は自分を動物である以上に人間であると認識しているので、そうやって生物の本能に突き動かされて行動するのは、何かちょっとはしたないというか、熱に浮かされすぎていて、本来あるべき自分の姿ではない、というふうに思いがちである。自分が結婚するのなら、もっと社会的な理由でしたい、などと思うのだ。