日曜の半蔵門線はガラガラだった。
私は渋谷へ向かう列車に、ドアへ 寄りかかってぼーっと乗っていた。「とぅぎわー、ぬぁーたちょー、ぬぁーたちょー、です」という鼻声アナウンスを、ああ次は永田町なのか、と理解するまでに50秒くらいかかった。東京はいそがしい。そうしている間にもう、次の駅にさしかかってしまう。
そしてそういういそがしさこそが何より私をぼーっとさせる。乗り過ごさないよう、読書もソシャゲもせずに、私はドアのすぐそばで手すりにつかまって、車内ビジョンを眺めていた。口、半開きで。ドアの上の小さい画面には、なんとか共済がどうの、どこそこ証券がなんのと、よくわからないニュースが流れていた。画面が灰色に見えた。
ふと、液晶画面が虹色になった。
晴れやかな顔で歩く人たちが、虹色の旗を振っている。車内ビジョンは無音だけれど、なんだか音楽が聞こえてくるようだった。そこに流れたテロップは、たしかこんなふうだったと思う。
「LGBT意識調査 過半数が同性婚賛成も、抵抗感根強く」
わぁお、と思っている間に、ニュースは次の話題に移った。若年層でエイズ死者が激増、みたいな話だった。
かつて人類がエイズの原因を知らなかったころ、エイズが「ゲイの癌(gay cancer)」と呼ばれて同性愛者のせいにされたことを思うと、このニュースの並びにはやや作為的なものを感じなくもなかったけど、考える間もなく列車は駅にすべりこむ。
私は周りをちょっと見た。私と同じように口をぽかんとしてニュースを見ている人が何人かいた。渋谷に着き、ぽかん、の人たちは急に、ちょっと殺気立ちつつ殺気立ってませんよ風の無表情になってぞろぞろと電車を降りていく。
みんな何を考えていたんだろうか。私は何を考えていたんだろうか。
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