ある大手家電量販店の決算の2週間前。報告された数字を見て首脳は凍り付いた。「粗利が異常なことになっている」。
家電エコポイントの終了や地上デジタル放送の開始による需要増の反動により、2011年中ごろから、業界全体が売り上げ減に悩んできたが、粗利益の減少幅があまりにも大きかったからだ。
あわてた首脳は、家電メーカーの幹部たちを行脚し始めた。すると、そこにはアマゾンをはじめとした、インターネット通販事業者に端を発する、激しい価格下落の構図があった。ネット通販が家電商品を卸値よりも安く売り、それに店頭の価格が引きずられ始めていたのだ。
「アマゾンは日本を滅ぼす」。ある家電量販店の首脳は、そう言い切る。家電量販店といえば、かつて不当廉売で、たびたび公正取引委員会から注意を受けてきた業界だ。不当廉売とは、企業規模にモノをいわせ、卸値すら下回るほどの安値で商品を売り、周囲がついていけず公正な競争ができなくなるような状況のことだ。
言ってみれば家電量販店は価格破壊の先駆者ともいえる存在だったが今や、アマゾンの安売り攻勢に悲鳴を上げているのだ。
匿名を条件に語った、ある大手ネット通販のOBは「安売りに関して公正取引委員会から、年に数回、口頭での注意は受けていたが、“ライバルの価格に合わせていた”と言い訳し、そのときだけ価格を上げることでかわしてきた」と明かす。
実は、公取は大手ネット通販事業者に、口頭での注意はしているものの、対外的に公表される「警告」はしていない。
その背景には、目に見えないネット通販が、独占禁止法に違反する要件に当たるかどうか判断がつきにくいということがある。
一方、決算で情報も開示し、街中に店舗を構え、周囲への影響が見えやすい家電量販店は、過去に何度も警告を受けてきた。それだけに、不公平感が漂っているのだ。