■初めて読んだSFマガジンは?
SFマガジン創刊から50年。本誌創刊の頃におぎゃあと生まれた赤ん坊も、めでたく50歳の誕生日を迎えたはずですが、わたしが生まれたのはその13カ月後なので、大森はまだ40代です。あしからず。
では初めてSFマガジンを買ったのがいつだったかというと、小学六年生の六月。自分が好きな小説はSFと呼ばれるものらしいと気づき、学校の図書室や市民図書館でSFと名のつくものを片っ端から読み漁っていた頃。たまたま新聞広告を見てSF専門の雑誌があることを知り、近所の書店へ買いに走った。
2010年版「時をかける少女」予告篇で仲里依紗が手にとるSFマガジンは1974年2月号ですが(2月号恒例の日本作家特集で、筒井康隆「モダン・シュニッツラー」、山野浩一「殺人者の空」、田中光二「わが赴くは蒼き大地」前篇なんかが載っている)、大森望が初めて手にとったSFマガジンは1972年8月号。通巻でいうと162号にあたる。この号の特集は、〈マッドSFの作家ラファティ〉。そこに訳載されていた三篇(「町かどの穴」「長い火曜の夜だった」「山上の蛙」)を読んだばかりに人生が変わった──とは言わないまでも、首までどっぷりSFにハマるきっかけになったのはまちがいない。
この号では、東京と東京湾が恋に落ちる藤本泉の「十億トンの恋」も(新井苑子のイラストとともに)鮮明に覚えている。ヒロインは、父親のジャポン氏に大事に育てられた箱入り娘の東京。幼馴染みの東京湾は、昔から暴れん坊で財産もなく、ジャポン氏には嫌われていたが、とうとうある晩、海の眷属を引き連れて、東京をさらいにやってくる。会場は大時化。未曾有の大暴風がメガロポリスを洗い流す……。その後、石川喬司・伊藤典夫編の恋愛SFアンソロジー『夢の中の女』にも再録されたくらいで、隠れた名作なのである。
その他の掲載作は、アシモフの「直感」、今日泊亜蘭「海王星市から来た男」、豊田有恒の「いまひとつの日本」。各種コラムから広告まで、舐めるようにして読み耽った。SFスキャナー(浅倉久志)で紹介されているのは、クライトンの『ターミナル・マン』。連載漫画は、手塚治虫「鳥人大系」と石森章太郎「新・幻魔大戦」だった。信じられますか。
翌月の1972年9月号はニューウェーヴ特集(一回目のほう)。10月号と11月号恒例のヒューゴー賞・ネビュラ賞特集には、ラファティ「完全無欠な貴橄欖石」「つぎの岩につづく」、スタージョン「ゆるやかな彫刻」、ライバー「凶運の都ランクマール」、ウルフ「デス博士の島その他の物語」、デイヴィッドスン「どんがらがん」が載っている。こういう時代にSFマガジンを読みはじめた小中学生がSF道まっしぐらに突き進むのは無理もない。
というか、わたしのまわりのSF翻訳者やSF作家にはそういう年代の人が多いんですが、そもそもみなさんはいつからSFマガジンを読んでいるのか。
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