子育てするゲイを周囲が応援する世界
恋愛関係になる男性キャラのうちのひとりが、かつて女性と結婚していた時の子どもを育てているという「イクメン」である作品のBL全体のなかでの割合は、おそらく現実の男性人口に占めるイクメンよりもかなり高い。
たとえば、マンガ『きみが居る場所』(深井結己/2003)では、「攻」キャラの息子の保育園児が短期間で「受」キャラになつき、ちゃぶ台の亡き母親の定位置に座っていいと照れながらいい、いったん出ていって戻ってきた「受」キャラに、泣きながらもうどこにも行かないでと泣きつく姿が描かれる。
マンガ『風の行方』( 国枝彩香/2004)では、もともとはノンケ(異性愛者)だった「攻」キャラ・健人の祖父母が健人の同僚で美術教師の男性・瑛との交際に反対している。最終的には瑛が「婿入り」してきて四人で同居することになるプロセスが、ユーモアを交えながらもしみじみと描かれる(健人の両親は若くして事故死している)。
引っ越しの日、手伝いに来ていた教え子の高校生のうちふたりの女子が「夏休みの自由研究で郷土史について調べて」いるので「昔の貴重な写真」を見せて教えてくれ、と健人の祖父に頼むと、祖父はまんざらでもない。そして、妻(健人の祖母)に「あいつらの仲を許したわけじゃない」といいつつもみんなのために寿司をとってやれ、という。これを見て、瑛は「作戦は成功」だと健人に説明する。
一、いかにもジジイ受けする優等生を送り込み懐柔する
二、男同士じゃ子供は望めないけど「ホラ、この生徒達がオレ達の子供だよ」とアピール どうよ? この一石二鳥の見事な作戦
自慢げに語る瑛の顔はコミカルにデフォルメされており、ユーモラスな印象を与えるシーンだが、自分たちの子孫を残しにくいだけに教育の仕事などを通じて次世代の育成に寄与したいという思いは、現実の同性愛者もかなりの割合で抱くものだろう。このシーンの数十ページ前には、交際三年目となったことを機に健人が結婚のかわりに養子縁組をしようといいだし、「お前が言う結婚って何?」と瑛に聞かれて
「保証が欲しい/(…)/世の中の夫婦に認められてる社会的な権利とか一番近い家族だっていう確かな証拠/もしも俺が死んだらお前に財産を残せるように…」
と答える場面もあり、作者・国枝が、同性カップルの権利問題を真剣に考えていることがわかる。
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