BLを読んでいるのは誰?
十分後、倒れるようにしてやってきたナナティが、みんなから迫られて話をはじめた。(…)/エイジが雑誌だけはなくしちゃいけないって。ウチの雑誌が色んなひとの心を救ってるんだって。特にゲイのひとにとって、なくてはならないものなんだって。だから雑誌だけは続けなきゃダメって……」/正直、ゲイの読者を意識して本を作ったことはなかった。読まれていることは知っていたけれど、BLは女性作家がえがく女性向けの読み物なので、ターゲットではなかった。
鶴岡部長が席に着くと、白鹿さんからのレクチャーが始まった。(…)/「それでね、実際に彼女達の雑誌はいくらかの人達の心を救ってるんだって。ゲイの人達とか/?……/ナナティが慌てて訂正する。/「あ、あの、ウチの読者は九十九パーセント女性です。一応、少女漫画なんで。もちろん中にはゲイの方もいらっしゃいますが、表面には出てこないので……」/「あぁ、そうなんだ」/どっちでもいいけど、という代わりに白鹿さんは煙草に火を点けた。なんとなくこの誤解には、エイジからの繫がりを感じる。すげぇ、エイジ。
これは、後藤田ゆ花による『愛でしか作ってません』(2007)という小説からの引用だ。YOIカンパニーというBL出版社の編集部員たちが親会社の赤字のあおりを食らって自社が倒産しそうだと知り、自分たちが築き上げてきた雑誌やレーベルをなくさないためにと、編集部ごと引き受けてくれる会社を探して東奔西走する様子が描かれている。
視点人物はBL編集部員の佐藤珠美こと「マリリン」。最初の引用文中で話している「ナナティ」は七瀬編集主任のニックネームで、「エイジ」は彼女の行きつけの占い師。ふたつめは、ナナティとマリリンが大手出版社K談社に編集部ごとの「身売り」の相談に行き、K談社社員の「白鹿さん」から「鶴岡部長」を紹介されるくだりだ。
この小説には「フィクションであり、登場する人物・団体は架空のものです」とただし書きがついているが、帯には「実際に起こったBL業界最大手の倒産をきっかけに生まれた長編青春小説」、著者プロフィールには「2006年までコミック誌の編集者」とある。
BLに救われている「読者」とは
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