あなたは、ファンドマネジャーという仕事はご存じでしょうか。
ファンドマネジャーとは、個人投資家のみなさんからお金を預かり、そのお金を使 って、投資をする担当者のことです。おもに投資先の選定や売買タイミングの決定を 行い、預かったお金を運用していきます。
私はかれこれ、25 年、投資の世界の第一線で仕事をしてきました。
株式投資で100%勝つ方法
株式市場に関わっている人たちは、誰もが「未来を見たい」と考えています。
なぜなら、「未来を見通す」ことができれば、必ず儲かるからです。
株式市場において100%勝つ方法があるとしたら、タイムマシンに乗って未来に行くことしかありません。どの会社が成長し、未来の株価がどうなるのかがわかっていれば、絶対に儲かります。
ですが、タイムマシンが存在しない以上、未来を見ることはできません。
過去、多くの投資家たちが、絶対に儲かる錬金術を手に入れようと挑み続けました。チャート分析や、ファンダメンタルズ分析といった分析方法が考え出されたのも、「未来を正確に予測したい」という欲望からです。しかし、どんなに高等数学を駆使したところで、予測は当たるときもあれば、外れるときもある。100%はありません。
それでも、世の中がどう動こうと、再現性を持って結果を出し続ける方法があります。たとえ予測が外れても、大崩れせずに立て直す方法があります。
私は、これまで磨き上げてきた「投資」、つまり本職の「仕事」の手の内をここですべて明かすつもりです。
なぜそんな企業秘密を明かすような、自分にとって不利なことをするのか。
そこには、私が直面している「危機感」があるからです。
日本人が誤解しているアベノミクスの本当の狙い
今、日本で起きていることを正確に理解している人は、どのくらいいるでしょうか。
こんなたとえ話があります。
そもそもお金とは、紙とコインにすぎません。
「この紙とコインには価値がありますよ」
と国が認めただけのことで、本質的には、「タヌキが集める木の葉」と同じものです。今の日本には、2匹の巨大なタヌキがいて、膨大な量の木の葉を貯め込んでいます。1匹目のタヌキは、「家計」です。このタヌキは、1600兆円の個人金融資産の中で、870兆円の現金預金を貯め込んでいます。2匹目のタヌキは、「会社」です。上場企業だけでも、内部留保(現預金)を200兆円も貯めています。1000兆円もの借金を抱える日本政府は、タヌキが集めた現金を動かすことで、借金を減らそうと考えました。
動かす方法は、次の2つ。
① 増税
② インフレ
すでに、消費税増税は実施されていますが、国民は増税に過敏に反応するため、なかなか税金が取れません。政府への信頼がなければ、増税はむずかしいのが実情です。
そこで、2つ目の方法です。
国民は、消費税が5%から8%に上がることには大騒ぎをしますが、為替が80円から120円になり、円の価値が下がっても、増税のときのように大騒ぎはしません。そのことに気がついた政府は、
「しめしめ。だったらインフレにするほうがいいな」
と考えたわけです。
日本銀行にお金をどんどん刷らせて、市場に出回るお金(円)の価値を下げる。これが金融政策としてのインフレです。物価が上がることで現金の価値は相対的に目減りするので、これによって1000兆円の借金の価値を下げようとしているわけです。日銀の黒田東彦総裁が行ったことから「黒田バズーカ」と呼ばれていて、円の価値は実質「3割」は下がったと言われています。
「貯金大好き」な人が損をする
では、円の価値が下がると、どうなるか。
「現金をたくさん持っている人が損をする」ことになります。
アベノミクスは「金持ち優遇」と批判されていますが、これは正しくありません。打撃を受けるのは2000万、3000万円の現金を貯め込んでいる人たちです。円の価値が3割下がった場合に、貯金100万円の人は30万円の損失ですが、貯金3000万円の人は900万円もの損失になります。
ところが日本人は、現預金が大好き。
投資も消費もしないまま現金を抱えています。投資をしないことによって、現預金が目減りするリスクを負っているのが今の状態です。アベノミクスの実体は、「金持ち優遇政策」ではなく、「株持ち優遇政策」。これからは、動かない人が損をする時代なのです。
これからの日本では、「動く人」と「動かない人」の格差がさらに広がります。
2年前に投資をはじめた人は、投資金額が平均で「2倍」に増えていますから、「動いた分だけ運用益が増えた」わけです。
「動かない人」は、転職をせず、地域を離れず、狭い交友関係の中で息を潜めていて、買い物する場所も代わり映えがしません。投資も消費も消極的で、節約が大好き。現状の不満を自分の責任ではなく、「世の中のせい」にしています。
私は、彼らのことを「失望最小化」戦略の人たちと呼んでいます。
「将来には、必ず失望が待っている……」 そう考えているのが、このグループです。
では、なぜ彼らは動かないのでしょうか。
それは、「先の見えない未来が不安」だからではないでしょうか。未来に「失望」しか抱けないことで、動く勇気を持てずに、立ちすくんでいるように見えます。
投資家は、リスクの中でいかに投資を決断しているのか
しかし、未来が予測できなくても、結果を出すことはできます。
丁寧に世の中を観察して、客観的に物事を判断して、リスクを恐れず決断していけば、短期的には多少の負けがあったとしても、長期的には「勝ち続けることは不可能ではない」と、私は信じています。
その根拠として、私はこれまで、不確実性の中で生き残ってきました。
25年間の運用経験の中で、バブル崩壊や阪神・淡路大震災、オウム・サリン事件、9・11米国同時多発テロ、リーマンショック、東日本大震災など、不確定な状況をいくつも経験しています。私の運用する「ひふみ投信」は、「R&Iファンド大賞」を2012年から4年連続で受賞しています。私たちは日本株を専門としていて、ライバルは約500商品。ライバルがこれだけ多くひしめく中で、「4年連続」でファンド大賞を受賞する確率は、「39億年分の1」 です。
激動する社会の中で、多くのファンドマネジャーは業界から姿を消しました。けれど、私はこうして生き残り、一定の成果を出し続けています。たしかに未来を正確に予測することは、誰にもできない。けれど、それを百も承知のうえで、ファンドマネジャーは、未来を選ばなければなりません。
なぜなら、投資とは、
「今この瞬間にエネルギーを投入して、未来からのお返しをいただくこと」
「世の中を良くして、明るい未来をつくること」
だからです。
お金を生かすためにも、明るい未来をつくるためにも、ファンドマネジャーは、
「未来に立って、今を見る」
必要があります。
投資が成功しなければ、「明るい未来」は訪れない。そう思うからこそ、私は、目を凝らして、見えない未来を見ています。ファンドマネジャーが、予測できない未来をどのようにとらえているか、理解いただけたでしょうか。
ここでは、先の見えない未来に不安を抱え、身動きが取れない人のために、投資家が「何を見て、どう考え、どう決めるのか」を明かします。
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