相談、再び
P区役所。ワタナベくんと二人、特に会話もなくイスに座って結果を待つ。
しばらくしてガラガラッとドアが開き、相談係のUさんが戻ってきた。
結局、扶養照会を止めるかどうかは協議のうえ決めることになり、生活保護の申請自体は受けつけられることになった。一時的にネットカフェで寝泊まりする費用も借りられた。
翌日に再度Uさんと話し合いが持たれることになったが、それはワタナベくん一人で対応してもらうことになった。あとはなんとかなるだろう。こうして、その日は解散した。
それから何日か経ったかが、P区からもワタナベくんからも特に連絡もこなかったので、この件はもうひと段落したのだと思っていた。
でも、僕の想像もつかないところで、事態は急変していたのだった。
「ワタナベです。ちょっと相談したいことがありまして」
くちびるのアザと、左腕に刻まれたタバコの痕
P区に生活保護の申請に行ってから2週間が経っていた。東日本大震災の被災地支援のために岩手県に来ていた僕のもとに、急にワタナベくんから電話がかかってきた。
話を聞けば、どうやらP区からご家族に扶養照会がいくことになったそうで、結局、宮城の実家に帰ることになったという。彼の実家は仙台駅からすぐだった。
僕も仙台経由で帰京するつもりだったので、彼と駅前の喫茶店で落ち合うことにした。
「ワタナベくん、お久しぶりです。まさか仙台に帰っていたなんて。聞いてなかったから驚きましたよ。って……そのくちびるのアザどうしたの?」
よく見ると、彼のくちびるは内出血のせいか、薄紫色に変色している。
心なしか顔色も悪く、表情も能面のように硬い。
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