■日本SF戦国時代の到来
しかし、こういう楽観論の一方で、悲観的な見方がないわけではない。先だってのSFセミナーで「SF Prologue Wave発進!」と題するパネルの司会を仰せつかったため、“日本SF作家クラブ公認ネットマガジン”と銘打つ〈SF Prologue Wave〉を読んでみたところ、現状認識の違いに驚いた。日本SF作家クラブ・新井素子会長の「創刊によせて」にいわく、〈今、日本SFのおかれた状況は大変厳しく、SF専門誌は廃刊を余儀なくされるものがあり、また、SFの新人賞も、少なくなってきています。原稿ができていても、本の出版ができないケースもでてきています〉
〈SF Prologue Wave〉副編集長の片理誠も、「我々は今、大変厳しい状況に直面しています」と述べ、編集長の八杉将司は、「SFに元気がなくなったと言われて久しくなります。(中略)我々日本SF作家クラブの会員はSFのかつての活気を取り戻さなければならない。いや、むしろこれまでになかった新しい活気を作るべきでしょう」と書いている。
たしかに1970年代に比べれば、いまの日本SFには活気がないかもしれない。しかし、1990年代に比べればずいぶん活気が出てきたんじゃないか……。
いや、それも違うという声もある。新レーベル《星海社FICTIONS》の創刊第一弾として四月に刊行された元長柾木『星海大戦』(星海社)の著者あとがきにいわく、
二一世紀初頭の日本において、SFというジャンルは、それまでの「冬の時代」と呼ばれる停滞期をくぐり抜けて、いささか盛り返してきているとみなされていました。けれどそれは、あくまで武器を持った者たちのあいだでの符丁にすぎませんでした。実際にあったのは、冬の時代などではなく、武器を持った者たちによる圧政の時代でした。そしてSFは復興したのではなく、彼らが新しい武器を見つけたということでしかありませんでした。「読者」にとって関係のある話ではありませんでした。
「これはSFではない」「あなたは本当のSFファンではない」──そのような物言いのもとで存在自体を圧殺されてきた読者に、何一つ関係のある話ではなかったのです。
要するに、“残虐で罪深い”一部のSFマニア(“武器を持った「語る人」”)がみずからのSF観を押しつけ、権威を偽造し、SFを“壟断”してきたために、SFは世間の人から恐れられ、読者が離れ、そして滅亡した──という主張。
このあとがきの末尾に、作中人物の九重有継が、「この文脈でいうと俺は悪の権化なのか?」と注釈めいたツッコミを入れ、このあとがきを読んだぼくのポカーンとした気持ちを代弁してくれてるわけですが、作家的なレトリックを別にすれば、これもまた、SF専門読者のエリート意識・権威主義・閉鎖性がSFの衰退を招いたとする、むかしながらの議論だろう。