「担当編集・浅井茉莉子さん」がトレンドワードに
速水健朗(以下、速水) 今日はスペシャルゲストをお招きしました!
おぐらりゅうじ(以下、おぐら) シャンパンも用意してありますよ。さっそく紹介しましょうか。
速水 第153回芥川賞受賞作『火花』の担当編集者、「文學界」編集部の浅井茉莉子さんです。
浅井茉莉子(以下、浅井) よろしくお願いします。
速水 スポーツ報知の記事が大ブレイクして、浅井さんまで一躍時の人といった感じになってしまったわけですが、どうですか?
浅井 本来、編集者は裏方なので、恐縮していますが……いろんな人から連絡をいただいています。
おぐら でしょうね。
浅井 中学の塾の先生とか(笑)。気恥ずかしいですが、ありがたいことです。
速水 浅井さんは、僕らのこのケイクスの連載の読者なんですよね?
浅井 いつも楽しみに読んでます!
速水 ありがとうございます! 軽い気持ちで来てよってお願いしてゲストとして来てもらったんですけど、あれよあれよで200万部を超えたらしいじゃないですか。こんなところに来てる場合じゃないですよね。
浅井 いえいえ。
おぐら こんなところ……。
速水 ちなみに報知の記事がヤフトピ入りして、「担当編集・浅井茉莉子さん」はトレンドワードになったわけですけど、一般個人がトレンドワードになる経験は珍しい。
おぐら ほかにも、又吉さんに密着したTBSの『情熱大陸』にも映ってましたし、翌日にはNHK『NEWS WEB』にもご出演されて。とはいえ、反響や影響力はネットのほうが大きかったですか?
浅井 そうですね、ヤフーニュース恐るべしです。
おぐら テレビは流れていくものなので出続けないと波及していきませんが、ネットは残るから一度バズると手に負えない。
浅井 ここまで影響力あるのかと。世の中は、ヤフーニュースにすべて牛耳られてるんですよ(笑)。
速水 ここに来るまでの間にも、浅井さんの元に取材の依頼が次々と舞い込んできてたからね。
浅井 出演は基本的にお断りしていますが、『火花』の宣伝になるものは喜んで協力しています。テレビのワイドショーに電話口でお話ししたり。
次回作は恋愛小説? ネットニュースから広がる妄想
速水 あのスポーツ報知の記事は、編集者が著者と出会って、一冊の小説が生まれるまでの裏側のストーリーと努力の話が、うまくまとめられていたよね。
浅井 記事が出た時は驚きました。なんかいい話になっている!と。
おぐら 冒頭の「伴走した5年間をスポーツ報知に語った」を見たときは、一瞬おにぎりマネージャーが頭をよぎりましたけど、炎上要素は一切なく、非常に好意的でした。
浅井 あれはすべて書いてくださった、報知の記者の北野さんの力なんですよ。
速水 あ、脚色とか入ってるってこと?
浅井 多少入ってます。そもそも私が発掘したっていうのが、とても申し訳ないです。又吉さんにエッセイをお願いしたり、文章力に注目していた方はたくさんいて、私はそれを読んで小説をお願いしたわけですし。
おぐら 又吉さんの読書好きは以前から知られていましたけど、エッセイの筆致も抜群ですよね。僕がテレビブロスで担当している「ブロスの本棚」という書評連載でも、2013年に出た『東京百景』を取り上げたことあるんですが、原稿を書いてくれた歌人の枡野浩一さんも「絶妙のセンス」だと唸っていました。
速水 浅井さんに注目が集まった背景には、あの写真の効果も大きかったでしょう。
浅井 あ~あの微妙な写真ですよね。
おぐら いやいや、黒髪ロングで前髪パッツンのインパクトはかなりのものでしたよ。あの写真一枚で、文学少女が大人になり、やがて芥川賞作家の担当編集に……という物語を勝手に妄想した人がいっぱいいたはずです。
浅井 小さく載るだけだと思っていたのですが。先に単行本の担当者が取材を受けていて、私はついでみたいな感じだったんで、完全に油断していました。写真もと言われて、そこで私だけ断るのは自意識過剰みたいだったので……。
速水 そしたら自分だけ写真付きで記事になっていたと。
おぐら ヤフーのコメント欄やネットの反応を見たら、「この2人が結婚すればいいのに」とか「次回作は担当編集とのラブストーリーじゃないか」とかって言われていて、さすがに驚きました。
浅井 なわけないんですけどね。恐いですよね。
速水 ネットの反応は気にしてました?
浅井 友だちから聞いたりしますが、自分ではほとんど調べてません。「ブス」とか「アホづら」とか、ディスられてるに決まってるじゃないですか。
速水 そんなことない。僕が最近参加したサラリーマンの飲み会でも話題になってました。4人中誰も『火花』は読んでないんだけど、担当編集者が美人だってのは皆ヤフーニュース経由で読んでいて。話題は出版界の外にも広がってる。
『情熱大陸』に映された編集者という仕事
おぐら 受賞の当日、又吉さんと一緒に連絡を待っている間は、どんな雰囲気だったんですか?