オタク同士の恋愛共依存から抜けだした、テイラー・スウィフトの決意

『テラスハウス』(フジテレビ)のテーマソングで日本でもおなじみのテイラー・スウィフト。アルバムの総売上は4000万、シングルの総ダウンロード数は1億3000万と、全世界で売れに売れており、現在も記録を伸ばしています。しかし、『テラスハウス』に対する「チャラい」印象の余波で、彼女の曲を聴かずぎらいに なっている人も多いのでは? この連載では、彼女の曲作りの源としても名高い恋愛模様を中心に、その乙女な魅力に迫ります。「チャラい」とか「セレブ」なんてイメージだけで、彼女のことを全く知らないひとでも、たちまちテイラーを好きになってしまうはず。記念すべき第一回は、アカデミー賞ノミネート俳優との「オタク」の恋愛のお話です。

垢抜けたテイラーの影にジェイクあり?

「ウ~ウウッウウ~」と音階を上下する、奇妙だがキャッチーなフレーズ。米ビルボートチャートで自身初の1位を獲得し、日本でもDLでミリオンを記録したテイラー・スウィフトのシングル "We Are Never Ever Getting Together" のこの一節をよく耳にしたのは、テラハのヒットの後押しもあったはず。

アイドル的な人気を誇るが、テイラーはカントリーミュージックを出自としたれっきとしたシンガーソングライター。今でこそスタイリッシュでスーパーモデルにも引けを取らないけれど、ペンシルベニア州の農場育ちで、かつては垢抜けない風貌だった。なぜこんな風に変わったのか? そう疑問が湧くと、楽曲から何かつかめないかと音楽への興味も湧いてきた。

テイラーは過去の男関係をテーマに曲を書くことでもよく知られており 、世間では「復讐ソング」という評すらある。インターナショナルヒットとなった ”We Are〜”をはじめ、同曲が収録された4枚目のアルバム『Red』にもラブソングが目立つ。しかし、ディテールから普遍を抽出する歌詞の端々から、素朴な個人の生々しい恋愛が見えてきて、それが彼女の持ち味になっているのだ。

このアルバムから、風貌のみならず音楽的スタイルもがらりと変わった。ティーンの女の子がスターになってイメチェンしただけ、ならばありがちだけど、根は内向的で詩や文学が好きな少女が楽曲にうかがえるから、テイラーはおもしろい。

オタクの恋愛あるあるは万国共通

“We Are〜”は、 05年の映画『ブロークバック・マウンテン』でアカデミー助演男優賞にノミネートされた、俳優のジェイク・ギレンホールとの恋愛関係の終わりがモデルとなったのだそう。しかし、別れにつきものの哀愁のある湿った響きではなく、サンプリングギターのメジャーコードが循環し、心地よいキックに導かれる冒頭から爽快さを押し出した仕上がり。『私たちは絶対に絶対にヨリを戻したりしない』という邦題のとおり、復縁を完全に拒む歌だ。

「彼といっしょにいるあいだ、わたしは批判されてばっかりで、自分はダメな人間だと思ってた」というテイラーの発言からは、ジェイクの精神的なDV気質が匂ってくる。この曲はいきなり「最初に別れたとき」という歌詞ではじまり、「昨夜また別れた」のに、「ケンカしたのが懐かしい」と、呆れては別れ、未練がましく復縁を迫られる関係を繰り返す……が、やっと「今度こそ言わなきゃいけない」と意を決し、「ヨリを戻したりしない」というサビになだれこむ構成だ。

テイラーが「ラジオで流れたら彼がイライラしそうな曲をわざと書いてみた」という この曲の歌詞で、「私の曲よりクールなインディレコードを隠れて聴いて、心を落ち着かせてるんでしょう」という、彼の音楽オタクであろう側面を皮肉る。この具体が効いてくるのだ。

抜け目ないキャッチーなサビの、「別れあるある」なフレーズに全世界の女たちが諸手を挙げて賛同したのはさもありなんという具合だけど、そこまでの運びのなかで、「インターナショナルオタク恋愛あるある」にも通じる個人的な体験を開いて見せ、それがドキュメンタリー的な下世話さと普遍の相乗効果を生んでいる。

「彼は、ほかの人が聴かないような曲ばかり聴いていて……そのバンドの人気が出はじめるとファンをやめちゃう」

こんな風に、「自分は他とちがう」と誇示せんばかりに、マニアな嗜好に走る音楽オタクはよくいるし、そんなオタクにオタクが惚れるのもよくわかる。テイラーは旺盛な好奇心ゆえ、自分の知らない文化的な趣味を持つ男を「深みがある」と思い、ロマンティックな妄想を掻き立てジェイクに恋をし、彼はおおかた、面倒くさい気質の自分を肯定してくれる彼女を都合よく思っていたところがあったのではないか?

そんな過去を吹っ切ろうとする、力強さを備えた “We Are〜” はポップスとして巧みに磨き抜かれており、音楽的な快楽とスタイルはテイラー自身の体験へと深く結びつく。ここにシンガーソングライターとしての真価が潜んでいる。


PHOTO:JACKIE BUTLER/RETNA 『Taylor Swift THE PLATINUM EDITION』(カンゼン刊)

「復讐ソング」を磨き抜くテイラーの執念

他にも、アルバム『Red』にはジェイクとの関係がモデルだとされる楽曲が多い。特に “All Too Well” は、聴くものが悲痛の渦中そのものに立たされる、涙なしには聴けないドラマティックな曲だ。

彼の姉の家に忘れたスカーフ、ふたりで歌っていたら遠くで迷ってしまったドライブ、お母さんが彼の少年時代の話をしてくれたこと。「真夜中に冷蔵庫の光のなかキッチンで踊ったね」というかわいいエピソードも登場する。穏やかな夕日のようなギターのストロークではじまるこの美しいロッカバラードは、こうして思い出をひとつずつ整理するように具体的な描写がしつこいほど綴られる……テイラーの記憶力と執念は病的ですらある。

それほど特別だったからでしょう、テイラーは「息ができなくなるほどつらかった」と過去を振り返り、当初 “All Too Well” は10分もの大作になってしまったのだそう。思い入れがあればあるほど自己憐憫に陥ってしまいそうなところだけど、彼女はそんな姿を表には出さず、いさぎよく供養。5分あまりに仕立て直した。2014年のグラミー賞でこの曲を歌う彼女は涙ひとつ見せずプロ然としているけれど、髪を振り乱す鬼気迫るパフォーマンスは、過去の恋愛をダシに曲を書くという復讐を果たした決別の清々しさのようにも、生々しさをかみ殺しているようにも見える。

オタク同士の恋愛泥沼から抜け出すための「ポップ」

“All Too Well” の歌詞に描かれる「眼鏡をかけた子どもの写真」がジェイクならば、それを見たテイラーは、孤独な自身の子ども時代を重ね合わせていたのではないか? カントリーミュージック好きで、みんなとはちがうという自意識を育んだ子ども時代を。二人の関係は、メジャーへの劣等感と、マイナー志向の尊大さが入り混じった、面倒な自己評価を互いに投影し合っていたのではないか、とわたしは推測する。そんな オタク同士の恋愛が下手したら、共依存の泥沼だ。

そんな風に考えてみると、 ”We Are~” の開き直ったような明るさの裏にも男と女の業が見えてくるようで、これだけポップに振り切らないと関係に決別できなかったであろうと理解できる。挑発的なほどはっきりと復縁を拒む歌詞は、未練より未来への可能性を見ているように思われる。

テイラーがジェイクと付き合っていたのは二十歳そこそこ。ドリーマーな乙女心まるごと、自分に似ていると感じた人に賭けてしまった。なのに、結婚するまで守るつもりだった処女を捧げた相手は、別れては復縁を迫り、DVじみたやり方で自分の劣等感をテイラーにも抱かせるような気質の持ち主。そんな思い出を葬るためと思えば、曲のテーマにするくらい許してあげてよと、わたしは全世界に対して擁護のシュプレヒコールを上げたい。

テイラー・スウィフトの魅力が詰まったこちらの書籍も必読です!

この連載について

テイラー・スウィフト 乙女ごころの怨み節

鈴木みのり

『テラスハウス』(フジテレビ)のテーマソングで日本でもおなじみのテイラー・スウィフト。アルバムの総売上は4000万、シングルの総ダウンロード数は1億3000万と、全世界で売れに売れており、現在も記録を伸ばしています。しかし、テラハに対...もっと読む

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コメント

keinakano21 この記事良かった 約3年前 replyretweetfavorite

VABOIYOSHIYA 周りからのとても評判高い記事。 約5年前 replyretweetfavorite

VABOIYOSHIYA #テイラーアンバサダー #swifties 約5年前 replyretweetfavorite

yuzushima https://t.co/XjDzoK9Vjz テイラー・スウィフト、マカヴォイ家で聞いているならCD借りてみようと思いながらそのままになってたけど、もりもり興味が出てきたぞ。音楽に明るくないので、背景の物語を先に摂取してしまう。 約5年前 replyretweetfavorite