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生きながらにして棺の中に埋葬されたような暗闇だ。希望の光が一筋も差しこまないこの場所では、少しでも気を緩めると、思い出したくない過去がまるで現実のように襲いかかってくる。
突然、白い炎が目の前に現れた。頬にはあのときの灼熱感が蘇る。突きつけられた松明から逃れようとしたが、身体を柱にくくりつけられているせいで、それ以上あとに退けない。
のけぞらせた背中に、後ろ手に縛られた両手が食いこむ。炎がさらに近づき、額が耐えがたいほど熱くなり、何かが燃える匂いがした。顔を焼かれる……そう覚悟した瞬間、炎が遠ざかった。だが、眉と睫毛はすでに焦げ落ちていた。
“松明の火を消してみろ!”
男の荒々しい声が命じる。わたしはひび割れた唇から必死で息を吹いた。炎の熱と恐怖で口の中はからからに乾いていて、歯はまるでかまどで焼かれたかのように熱い。
“ばかもん!”
男は悪態をついた。
“口で消すんじゃない、意志を使え。精神力で火を消すんだ”
慌てて目を閉じ、炎が消えてなくなるよう念じる。それがどれほどばかげたことでも、この男を満足させるためなら、なんでもするつもりだった。
“意識を集中させろ!”
ふたたび炎が顔に近づいてくる。
“髪に火をつけてやればどうですか?”
別の男が提案した。先の男より若くて、貪欲な声だ。
“そうすればこいつも、もっとやる気を出しますよ。ほら、父上、わたしにお任せください”
その声の主が誰なのかに気づき、恐ろしさで全身が引きつった。拘束を解こうとしてもがくうちに、どこからともなく振動音が聞こえてくる。その低い音は、どうやらわたしの喉の奥から出ているようだ。音響の中、意識が散り散りになっていく。響きはしだいに音量を増し、室内を満たし、ついに炎をかき消した——。
そのとき、鍵を開ける金属音が鳴り響き、悪夢のような記憶から現実へとわたしを引き戻した。暗闇をほのかな黄色の光が切り裂き、独房の重い扉が開くにつれて、光の帯が石の壁を伝ってくる。灯火に顔を照らされ、眩しさに目をきつく閉じ、独房の隅で身をすくめた。
「さっさと来い、ドブネズミ。でないと鞭が飛ぶぞ!」
看守がわたしの首についている金属の首輪に鎖をつけ、身体ごと引き起こした。躓いて前のめりになり、喉が潰れそうになる。震える足でなんとか立ち上がると、看守たちはわたしを後ろ手にし、手際よく手錠と足枷をつけた。
ふたりの看守に連れられて両脇に檻が連なる地下牢の廊下を歩く間、角灯のちらつく光から目を背けた。得体の知れない汚物がたまった牢獄の床を裸足で小刻みに歩いていると、四方から囚人の野次が飛んでくる。
「は、は、は。誰かさんが吊られるようだぞ」
「餌を食い潰すドブネズミが一匹減って、いいこった」
看守は囚人たちの声には耳を貸さず歩み続けるが、わたしの心臓は投げかけられる言葉にいちいちびくりと反応する。
「ボキッ! ポキッ! そして、最後の晩餐が足を伝って流れ落ちる」
「俺も、俺も連れていってくれ! 俺も死なせてくれ!」