渡辺由佳里
マナーを守らないのは「最近の若者」か?
どこの国にも目には見えないルールやマナーがたくさんあり、「最近の若い者は礼儀をわかっていない」という言葉が、アメリカでも聞かれるそうです。しかし、アメリカ内のマナーが受け継がれなくなったのは単なる核家族化よりも複雑な問題に起因しているそうで……。
マナーを教えてくれる人がいない
自宅の増改築のために雇った建築家のジョーさんは私たちと同年代で、つねに背筋が伸びている礼儀正しい男性だ。
一緒にランチに行ったとき、ジョーさんが「最近の若者は……」と溜息をついた。
何かとおもったら、「テーブルマナーがなっていない」と言うのだ。
席についたらすぐにナプキンを膝に置く、食事が終わったことを示すのにはナイフとフォークを右肩斜めに並べて置く。それがアメリカのテーブルマナーだ。イタリア系移民のジョーさんは同居のおばあちゃんから厳しく躾けられて身につけたのだが、最近はこのマナーを守らない若者だらけになっている。
「誰も教えないのだろうか?」ジョーさんは首を傾げた。
ジョーさんが「消えている」と嘆くアメリカのマナーは、むかしヨーロッパから移民が持ち込んで独自に発達したものだ。ヨーロッパといっても国によってマナーに違いはあるのだが、共通点は多かった。
建物から出るとき、入ってくる人のためにドアを開けて待っていてあげるとか、妊婦やお年寄りに席を譲ってあげるとか、重い荷物やベビーカーを押している人が階段を上がるのを手伝うのもヨーロッパから来たマナーだ。
マナーが消えてきたのは、核家族化で家庭からおばあちゃんがいなくなったからだけではない。
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この連載について
渡辺由佳里
「アメリカンドリーム」という言葉、最近聞かなくなったと感じる人も多いのではないでしょうか。本連載では、アメリカ在住で幅広い分野で活動されている渡辺由佳里さんが、そんなアメリカンドリームが現在どんなかたちで実現しているのか、を始めとした...もっと読む
著者プロフィール
エッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家。助産師、日本語学校のコーディネーター、外資系企業のプロダクトマネージャーなどを経て、1995年よりアメリカ在住。
ニューズウィーク日本版に「ベストセラーからアメリカを読む」、ほかにFINDERSなどでアメリカの文化や政治経済に関するエッセイを長期にわたり連載している。また自身でブログ「洋書ファンクラブ」を主幹。年間200冊以上読破する洋書の中からこれはというものを読者に向けて発信し、多くの出版関係者が選書の参考にするほど高い評価を得ている。
2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。著書に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、糸井重里氏監修の『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)、がある。