ある夜、私たち家族は六本木ヒルズの回転寿司屋でお寿司を食べていた。抱えていた大きな仕事が一区切りついたので、自分と、忙しいスケジュールに付き合わされた子供達のために、しっぽりと慰労会を開催していた。アルコールも入り陽気になった私につられて、子供達も競うようにしゃべる。初めのうちはどこをとっても幸せ家族の楽しい食事であった。ところが中盤、何かの拍子に突如息子がまじめな顔をして妹に説教を始めたのである。
「楽しい学校生活送りたいなら友達を沢山作るんだよ。そのためには、みんなと同じ趣味を持って、みんなと同じものを好きにならないとダメだよ」
なんでも最近息子の読んだ漫画に、クラスに馴染めない女の子をターゲットにした、陰湿ないじめのシーンが描かれていたそうで、にわかに妹のことが心配になったのだという。妹を思いやる気持ちは認めるものの、私はこの息子の発言にどうしても納得できなかった。確かに娘は、小学校の休み時間に一人で俳句を詠んだり、日本野鳥の会の探鳥会に参加したり、スマホの待ち受けを織田信長の肖像画にしたりするような、ちょっと変わった趣味を持つ女児である。しかし、それはそれで決して悪いことじゃない。特殊なことは面白いこと、面白いことはいいことである。私、軽く酔っていたこともあり、つい噛み付いてしまった。
「それ、ちょっと待って。自分の本当の気持ちを無視してみんなと同じものを好きになる必要ってある? 子供のうちから友達とうまくやることばっかり考えて器用に振る舞ってもつまんない大人にしかなれないよ」
思い返せば私だって、幼少期より日曜朝の政治討論番組「サンデープロジェクト」を欠かさず観る子供だった。おかげで学校生活はあんまり楽しくなかったが、その代わりインターネットという楽しい世界と出会って、そのおかげで結婚して……結果離婚したわけだがまあそういうこともある。刺激と平穏はトレードオフとも言えるわけで、今となっては、ホムペを作って自己表現する恥ずかしさに全然気付かない、イタイ子供で本当によかったと思う。だから、必ずしもみんなと同じものを好きになる必要なんかない!……と思うところを猛烈に主張した私に対し、今度は息子が言い放った。
「そんなこと言うけどさ、結局ママはパパと結婚してラッキーだっただけじゃん」