イラスト:長尾謙一郎
中居正広が新しいアイドルのあり方を発明した
柴那典(以下、柴) 前回はGLAYについて、バンドとブランドの話でしたが、今回はジャニーズ系のグループをテーマにしようと思います。
柴 「Kis-My-Ft2が“攻める”理由」。彼らは7月にニューアルバム『KIS-MY-WORLD』をリリースしました。これが非常に興味深い内容になっている。
大谷ノブ彦(以下、大谷) キスマイ、好きですねえ。というか、僕はジャニーズのほとんどのグループの楽曲が好きなんです。それぞれにいい曲があって、それぞれのアプローチの仕方も個性的。
柴 ほんと、ジャニーズの音楽はクオリティーが高いですよね。ちゃんと売れるからきちんと楽曲制作にお金をかけられる。この連載でもSMAP、嵐、関ジャニ∞を取り上げてきました。
「SMAPと嵐が体現する“アイドルの本質”とは」
「サマソニ2015には関ジャニ∞が出るべき!? 渋谷すばるとブルーハーツ30周年」:
大谷 で、なかでも今僕が一番ハマっているのがキスマイなんです。
柴 大谷さんはキスマイのどのあたりが好きなんですか?
大谷 まずメンバー7人のうち後列の4人が「舞祭組」というユニットとしてデビューしているんです。中居正広さんがそれをプロデュースしている。
柴 後ろの4人が「ブサイク」って言われるのを逆手にとったネーミングなんですよね。
大谷 そう。インタビューの発言もめちゃめちゃおもしろいんですよ。自分らだけテレビで見切れてるとか、お茶が出てこないとか言ってて。
そういうユニットをプロデュースしたのが、中居正広という、新しいアイドルのあり方を発明しちゃった人。
柴 発明というと?
大谷 中居正広はアイドルなのに自分で「歌が下手」「ダサい」って言ってるわけですよ。アイドルの美意識の中でそれを言うことをネタにした。その結果、アイドルは「卒業しなくていい」ということにすらなった。彼のプロデュースだからこそ、アイドルが「ブサイク」と名乗るのもOKになったんです。
柴 でも、キスマイ自体はそういう変化球のグループではないですよね。
大谷 まったくそうではないです。むしろ、すごく上質なポップスをやっている。フィリー・ソウルを踏襲していた90年代のSMAPのサウンドメイキングに通じるものがある。特に「Kis-My-1st」というアルバム(2012年)に入っている「Girl is mine」がすごくよくて、僕はそこから病みつきです。
柴 舞祭組のデビューは2013年の末ですね。そのタイミングで『SNOW DOMEの約束/Luv Sick』というシングルも出ている。
大谷 ほんと、この「SNOW DOMEの約束」がいい曲なんですよ。トライセラトップスの和田唱さんが作詞したバラードで。実はジャニーズのグループがバラードのシングルを出すというのは、これから王道に行くぞ!というサインなんです。
柴 昨年末には『Thank youじゃん!』というシングルもリリースされましたね。これがまさにSMAPを彷彿とさせる軽やかなポップソングで、一番売れた曲になった。
大谷 ギミックに頼らず堂々と普遍的なポップスを作るモードになってきたということですよ。舞祭組もあり、メンバーそれぞれのキャラも際立ってきて、いよいよ国民的なグループになりつつあるということなんです。
王道を引き受けたからこそチャレンジができる
柴 そういうタイミングで『KIS-MY-WORLD』という4枚目のアルバムが出た。これもいい曲が並んでますよね。
大谷 でしょう! EDMっぽい味付けはあるけれど、ちゃんと日本のポップスになっている。
柴 しかも、初回限定のリミックス盤がすごくおもしろい。banvox、Avec Avec、PandaBoY、TeddyLoidと、日本の若い世代の一番エッジィで才能あるクリエイターを集めている。
キスマイをRemixした☆Taku、banvox、和楽器バンド、Avec、DAISHIらコメント - 音楽ナタリー
大谷 そう。今の時代のセレクトですよね。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。