3年前に初めて見かけて、欲しいな、と思ったバッグが今も変わらず欲しいままである。
とある老舗のブランドが作っている革製のトートバッグで、3年前に一度流行った。当初雑誌で見かけている限りでは特に何と思うこともなかった。周囲のお洒落な友人たちがちらほら持ち始めても「便利そうだな」と思う程度で、自分も同じ物が欲しいとは思わなかったのだ。ところが、当時住んでいたマンションでときどきすれ違う、名前も知らない、言葉を交わしたこともない、40代とおぼしき女性がこのバッグのピンク色を持っているのをたまたま見かけた。化粧っ気もなく、髪は適当にお団子、服装はジーパンにTシャツにスニーカーというカジュアルな装いの彼女が、例のトートのピンクのやつを、無造作に肩からかけていた。使い込まれた風合いが程よい味を醸していて、なんだか非常にかっこよく見えた。彼女が持っているのを見かけて以来、気負わない使い方を許容する10万円のバッグが、なんだかとても魅力的なバッグに思えてきたのだ。
そうは言っても10万、である。
高いなあ。だけど毎日使えば元はとれるかなあ。買うとしたら何色の、どのサイズにするべきか……そんな風に思い悩んで、結局買わないまま、早3年である。流行はとうに終焉を迎え、今やそのブランドの売れ筋は違うシリーズに移っている。定番として店頭では引き続き見かけるものの、今あえて買うべき目新しさはない。
……ところが、私は今でもあのバッグを夢見ているのだ。あのバッグを持った私は、今よりもうちょっと魅力的になる気がするし、あのバッグがある日常は、今よりもうちょっと色鮮やかになる気がするのである。
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