イラスト:長尾謙一郎
音楽フェスは「村おこしのお祭り」になった
柴那典(以下、柴) 前回はLINE MUSICやApple Musicなど新しい音楽サービスの話をしましたが、今回もタイムリーな話題でいきましょう。
柴 2015年、本当に行くべき夏フェスはどれか。大谷さん、どう思います?
大谷ノブ彦(以下、大谷) これはね、「マグロック」と「フジソニック」です。以上!
柴 え? マグロック? フジソニック? なんですかそれ?
大谷 知らないんですか!? これはね、10月3日と4日に静岡県の清水市で始まる新しいフェスなんですよ。
柴 えー、公式サイトによると「『マグロック』は、音楽をこよなく愛するお笑いコンビ“ダイノジ”とロックシーン最先端を走る強力ラインナップで送る新しいエンターテインメント・ロックフェスティバル」……。
なるほど。告知おつかれさまです。で、今回のテーマは「本当に行くべき夏フェスは」ということですが——。
大谷 おいちょっと!(笑)。
—— 最近、夏フェスが多いですよね。フェスはブームなんですか?
柴 正直、そうだと思います。ここ数年でフェスは本当に増えた。フジロックやサマーソニックのような大きなフェスだけでなく、初夏から秋にかけて、ほぼ毎週末にいろんな地方で野外フェスが開催されている。
大谷 フェスに行く人も増えましたね。
—— そうなると、「どのフェスに行くのが正解なの?」って迷っている人も多いと思うんです。
柴 大きなフェスについては、好きなアーティストが出ているもの、一緒に行く友達がいるものを選ぶというシンプルな選択でいいと思います。もしくは自分の好きな音楽ジャンルをテーマにしたフェス。最近だったらEDM系の「ULTRA JAPAN」も人気ですよね。で、「どのフェスがオススメか?」というのは、最近、僕の中で明快な結論があって。「地元のフェス」に行くのがいいと思ってるんですよ。
大谷 というのは?
柴 ここまでフェスが増えたことで、最近はフェスの位置付けも変わってきていると思うんです。いわば言葉通りの「お祭り」に近いものになっているんじゃないか?という。
大谷 僕もそう思いますね。今のフェスは音楽好きだけが集まる場所ではなくなって、花火大会みたいなレジャーの一つになっている。
柴 そうなんです。好きなアーティストのライブを目当てに行く人はもちろんいますが、それだけじゃなく、CDを聴きこんだりして予習してなくても、なんなら出演者のことを知らなくても、なんとなく「楽しそう」と思って行ってみる人も多い。そこで偶然観たライブが格好よかったら、そのアーティストのファンになるという。
大谷 逆に、フェスが新しい音楽を知る場所になっている。
柴 フジロックやサマーソニックやロック・イン・ジャパンみたいなメガフェスを毎週末やってると思うと、ちょっと多すぎる気がしますよね。でも、「毎週末に日本各地でお祭りをやっている」と思えば、それは当たり前のことになる。地元のお祭りにいくような気持ちで、近場のフェスに行けばいい。
大谷 フェスが村おこしの役割を担い始めたのも大きいですよね。たとえば「イナズマロックフェス」はT.M.Revolutionの西川貴教さんが地元の滋賀県草津市の行政と一緒に立ち上げて主催している。
柴 今年は7年目ですね。琵琶湖の環境保全と地域振興がテーマとなっている。
大谷 氣志團の「氣志團万博」は彼らの地元の木更津での開催だし、そこに大物アーティストを呼ぶというのは、彼らにとって「故郷に錦を飾る」というロマンがある。
柴 アーティストが自分の出身地で自らフェスを主催する例は多いですよね。くるりの「京都音楽博覧会」や10-FEETの「京都大作戦」も、彼らが拠点にしている京都で行っている。
大谷 京都大作戦は、いまや地方のフェスのナンバーワンですよね。毎回アーティストを発表する前にチケットがソールドアウトする。
柴 京都大作戦は、行った人が軒並み「どのフェスよりも最高だった」と言うんです。アーティスト同士やお客さんの一体感がすごい、と。
大谷 たしか、あのフェスは最初の一年目が台風で中止になったんですよね。でも、二年目のときに全く同じメンツが10-FEETのためにスケジュールをあけて待っていた。
最初からフェスに物語性があるんですよ。しかも、その時にできた曲が「goes on」という彼らの代表曲だった。
柴 10-FEETというバンドは「京都大作戦」を続けていくことで、ファンの信頼、仲間の信頼、いろんなものを手にしていったと思います。
大谷 いい話だなあ。
フェスがその街の音楽文化を豊かにする
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